日本映画

映画レビュー「フィア・オブ・ミッシング・アウト」

2021年7月30日
亡き親友が残したボイスレコーダー。吹き込まれた“遺言”に耳を傾けながら、ユジンは親友の思考や認識を追体験していく。

自殺した親友の思いを追体験

映画の主人公であるユジンは、男友だちを真夜中のドライブへと誘う。久々のデートのようだが、向かう先は寺だ。「なぜ寺へ?」と問う男友だちに、ユジンは「半年前に友だちが死んだんだけど、ボイスレコーダーが見つかったの。それで思うことがあって…」と答える。

親友のイ・ソンは自殺したが、ボイスレコーダーには、イ・ソンに死を決意させた出来事や彼女の心境が録音されていた。その一部を、ユジンは男友だちに語ったり、心で反芻したりしながら、ドライブを続けるのである。

映画の最初の方に、“遺言”を聞いたユジンが一人嗚咽する場面がある。映画は、その泣き顔ではなく、彼女の波打つ腹部を映し出す。この独創的なショットによって、見る者は本作を撮った河内彰という監督の卓越した才気を確信することだろう。

イ・ソンの遺言は、夫と過ごした時間や交わした会話など、夫婦という特定の関係に密着した思考から、この世界に生きる不特定多数の人間たちを対象とした普遍的認識へと広がっていく。

「誰かが過ごした今日の時間…。誰かと過ごした素敵な時間…」。映画は、そんなイ・ソンの言葉を流しながら、ユジンたちの車が走行する道路や都市風景を映し出す。絶えず変化する夜景が次の夜景へ溶け込み、また次の夜景へと溶け込んでいく映像。その連続運動がたまらなく美しい。

それぞれの夜景に瞬く光は、まさにイ・ソンが思いを馳せる不特定多数の人々の人生かもしれない。

ユジンは、そんなイ・ソンの思考や認識を、ドライブしながら追体験していく。イ・ソンと共有した時間、イ・ソンと夫との濃密な時間、イ・ソンの夫の心を壊した決定的瞬間……。

記憶や空想、幻想を交えながら、映画は終着点へ向かう。そしてユジンはイ・ソンの死をようやく受け容れる。

映画レビュー「フィア・オブ・ミッシング・アウト」

フィア・オブ・ミッシング・アウト

2019、日本

監督:河内彰

出演:Yujin Lee、高石昴、小島彩乃、サトウヒロキ、リベニカ

公開情報: 2021年7月31日 土曜日 より、池袋シネマ・ロサ他 全国ロードショー

『IMAGINATION DRAGON』(2020、日本)を同時上映。

公式サイト:https://www.fomocinema.com/

コピーライト:© Crashi Films

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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