外国映画

映画レビュー「デッドロック」

2021年5月14日
広大な砂漠を舞台に、暴力と陰謀と恋と狂気が炸裂する。ニュー・ジャーマン・シネマの隠れた鬼才が生んだ幻の傑作。

ドイツの鬼才が生んだ幻の傑作

広大な砂漠の中、若い男がふらつきながら歩いてくる。深手を負っているようだ。やがて力尽きたか、どっと地面に倒れる。

男が携えていたジュラルミンのスーツケースには大金が詰まっている。近寄ってきた中年男がそれに気づき、男をひと思いに殺そうとするが果たせず、とりあえず家に連れ帰る。男が死ぬのを待って、金はその後に奪おうという肚(はら)だ。

だが、男はしだいに回復し、男の仲間もやってくる。100万ドルの大金をめぐって、男たちの苛烈な闘いが始まる――。

舞台となるのは、アメリカかメキシコか、どこかの閉鎖された鉱山、デッドロック。主な登場人物は、銀行から盗んだ大金とともに流れ着いたキッド。彼の仲間で非情な殺し屋、サンシャイン。デッドロックの監察官を務めるダム。ダムが養う元娼婦のコリンナと、その娘らしき少女ジェシー。

100万ドルを争う3人の男たちに、気のふれた中年女と、ロリータ風の美少女が絡み、暴力と、陰謀と、恋と、狂気が入り乱れた、サバイバルゲームが繰り広げられる。

ギラギラと照りつける太陽、舞い上がる砂埃、喚きながら走る狂女、銃撃一発で吹き飛ぶ車……。眩暈(めまい)を催すイメージの連鎖が、見る者をシュールな異世界へと誘う。

監督は、ローラント・クリック。ニュー・ジャーマン・シネマの作家たちとほぼ同時期に活動しながらも、群れることなく我が道を歩んだ孤高の映画監督だ。

長編2作目となる本作は、国内でヒットし、ドイツ映画賞も受賞。カンヌ映画祭にも招待されたが、商業的との理由で国内の批評家からバッシングを受け、コンペから外された。複雑な運命をたどった作品だ。

いま見ると、どこが商業的なのかと思うほど、通俗性に欠け、すこぶるアーティスティックな映画だが、ニュー・ジャーマン・シネマの最前衛に基準をとれば、そうなるのだろう。少なくとも難解さはない。

キッド役として出演しているのは、マルクヴァルト・ボーム。本作とほぼ同時期に撮られた「聖なるパン助に注意」(71)をはじめ、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー作品ではお馴染みの俳優だ。ちなみに、同じくファスビンダー作品の常連俳優で監督でもあったハルク・ボームは実の兄である。

キッドと深い関係になるジェシー役には、マーシャ・ラベン。やはりファスビンダーの「あやつり糸の世界」(73)で印象的なヒロインを演じているが、本作で見せる妖しい魅力が同作にも発揮されていて興味深い。

音楽を担当したのは、イエジー・スコリモフスキの「早春」(70)やヴィム・ヴェンダースの「都会のアリス」(74)も手がけたドイツのロックバンドCAN(カン)。

オープニングは、煽情的かつ暴力的なサウンド、劇中では抒情的なストリングス、エンディングはボーカルの入ったロックというふうにバリエーションをつけながら、作品世界を効果的に彩っている。

一旦忘れられたが21世紀に入り再評価され、改めて光が当たりつつあるローラント・クリック。埋もれた鬼才が生んだ幻の傑作をとことん堪能してほしい。

デッドロック

1970、西ドイツ

監督:ローラント・クリック

出演:マリオ・アドルフ、アンソニー・ドーソン、マルクヴァルト・ボーム、マーシャ・ラベン

公開情報: 2021年5月15日 土曜日 より、新宿K’s cinema他 全国ロードショー

公式サイト:http://deadlock.movie.onlyhearts.co.jp/

コピーライト:© Filmgalerie451

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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