老母と、4人の息子、そして孫たち。転機を迎えた親子三代の物語が、季節の移ろいの中で、絵巻物のように展開する。

山水絵巻のような映像美

杭州市、富陽(フーヤン)。老母の誕生日を祝う会に、4人の息子とその家族、親戚らが集まる。ところが、祝宴の最中、母は脳卒中で倒れてしまう。一命は取り留めたものの、認知症が進行し、息子たちは介護問題に直面する。

飲食店の経営者である長男。漁師の次男。闇社会とつながりを持つ三男。独身生活を謳歌する四男。そして、恋する孫たち。それぞれが、人生の新しい局面に向かい合う。

夏から秋、冬、そして春へ。映画は、美しい季節の移ろいの中に、一人ひとりの人生模様を紡ぎ出していく。

登場人物は多数。しかし、いずれも埋没することなく、個性豊かに描き出される。驚くことに、主要人物は、母、孫娘、孫娘の恋人の3人以外、すべて監督の親戚をキャスティングしたのだそうだ。

これだけの数の素人俳優をコントロールし、堂々たる群像劇に仕上げてしまう手腕は並大抵ではない。これが監督デビュー作ということにも驚嘆させられる。

秀逸なのは人物の描き方だけではない。風景描写がまた素晴らしい。カメラがすごいのだ。

誰もが目を瞠(みは)るに違いない、ロングテイクがある。孫娘のグーシーが、恋人のジャンと富春江でデートする場面。

「ぼくは泳いで、君は歩く。競争しよう」。河に飛び込んだジャンが向こう岸まで泳ぐのを、カメラはロングショットで追い続ける。

樹々の緑を映す水面。聞こえるのは、ジャンが水を掻く音と、息継ぎの音。岸辺の人々のお喋り。そこに、グーシーの口ずさむ歌をフィーチャーするという演出も洒落ている。映像のみならず音像設計も非凡なのである。

カメラは、ジャンが岸に上がった後も、並んで歩く二人に寄り添い、船に乗り込むまで離れない。

そこに劇的な展開があるのではない。一気に見せたいリアルな芝居があるのでもない。溝口健二やマックス・オフュルスなどの長回しとは異質なカメラワークなのだ。

グー・シャオガン監督は、山水画の名作「富春山居図」にインスピレーションを受けて本作を撮ったのだと言う。

元代の画家・黄公望が映画の舞台となった富陽で描いた山水絵巻。グー監督は、この絵巻物をスクロールする感覚で、移動撮影を行ったのだろう。

フィックスやパンではとらえ切れない広大な風景を、巻物を展開するように撮影する。この手法は、河辺に突然雨が降り出すシーンや、グーシーのデートと四男の初デートが並行するシーンなど随所で使われ、見事な視覚的効果を上げている。

緑が支配する夏、青みがかった寒色が強まる秋、雪化粧でモノクロ化した冬と、季節の描き分けも鮮やかだ。

エンディングは春。だが、完結はしない。次にまた夏がきて、秋がくる。家族の物語は延々と流れていくだろう。

すでに続編を準備中らしい。息子たちや孫娘らのその後が、今度はいかなる絵巻物として繰り広げられるか。楽しみである。

『春江水暖~しゅんこうすいだん』(2019、中国)

監督:グー・シャオガン

出演:チエン・ヨウファー、ワン・フォンジュエン、スン・ジャンジエン、スン・ジャンウェイ、ジャン・レンリアン、ジャン・グオイン、ドゥー・ホンジュン、ポン・ルーチー、ジュアン・イー

2021年2月11日(木・祝)より、Bunkamuraル・シネマ他全国ロードショー。

公式サイト:http://www.moviola.jp/shunkosuidan/

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