日本映画

映画レビュー「花束みたいな恋をした」

2021年1月28日
本、音楽、映画…。何もかも好みが同じ。いつでも一緒だった二人だが、“就活”の季節が訪れ、それぞれの心がすれ違い始める。

ずっと一緒にいたかった…

麦と絹は、いわゆる似た者同士だ。読む本が同じ、音楽の好みも、映画の趣味も、履いている靴も、何もかも同じ。恋人関係になるのは、ごく自然の流れだった。

大学生なので、好きなだけ一緒にいられる。同じであることを喜び合い、笑い合う毎日。しかし、やがて就活の季節がやってくる。

ともに就職が決まらないまま卒業し、バイトしながらの同居生活。だが、蜜月は終わる。それぞれ就職し、同じ時間、同じ空間を共有することができなくなるのだ。

社会人となることによって、二人は初めて互いの違いを意識する。ピタリと嵌(は)まっていたジグソーパズルのピース。その角が欠け、別の角が生じ、嵌まらなくなっていく。そんな感じか。

形の変わったピースを必死に嵌めようとする麦。あきらめ気味の絹。男と女の違いなのか、互いの気持ちに少しずつ温度差が生じていくのが、見ていて切ない。

終電を逃す駅。カフェ。カラオケ。ファミレス。海岸。多くのシーンは、ロケ撮影されている。「自分も利用している」、「知っている」、「行ったことがある」。観客からはそんな声が洩れそうだ。

リアルなのは、ロケーションだけではない。二人の会話に出てくるアイテムや流れる音楽なども、本物ばかり。

麦が住むアパートの本棚には、宮沢賢治や阿佐田哲也、三浦しおん、荒木飛呂彦といった著者名が並び、絹に「ほぼ、うちの本棚」と口走らせることで、二人の共通性を具体的に表現している。

突飛な出来事や劇的な事件が起こるわけではない。平凡な日常を生きる、平凡な男女が、平凡な恋愛を経験する話。アイテムの固有名詞は、その平凡さにリアリティを与えるための重要な小道具となっている。

カフェで押井守(!)を発見するシーン、こたつで寝てしまった絹に麦が毛布を掛けるシーン、ファミレスで若いカップルに遭遇するシーン。随所に印象的なシーンが散りばめられていて、見終わった後も、映像が頭の中を走馬灯のように駆け巡る。

「東京ラブストーリー」(91)、「Woman」(13)など、テレビドラマで数々のヒット作を手がけてきた脚本家・坂元裕二の作劇術が光る、珠玉のラブストーリー。

映画レビュー「花束みたいな恋をした」

花束みたいな恋をした

2021、日本

監督:土井裕泰

出演:菅田将暉、 有村架純/清原果耶、 細田佳央太/オダギリジョー/戸田恵子、 岩松了、 小林薫 他

公開情報: 2021年1月29日 金曜日 より、TOHOシネマズ日比谷他 全国ロードショー

公式サイト:https://hana-koi.jp/

コピーライト:© 2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

配給:東京テアトル、リトルモア

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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