日本映画

映画レビュー「ヤクザと家族 The Family」

2021年1月28日
14年ぶりに出獄した男を待っていたのは、変わり果てた“組”の姿だった。激変した社会に、もはやヤクザの居場所はなかった。

居場所を奪われたヤクザの人生

早くに両親を亡くし、チンピラ仲間と荒れた日々を送っていた山本。ある日、行きつけの食堂でヤクザの組長・柴咲が襲撃される現場に遭遇する。図らずも命の恩人になった山本は、柴咲を通じて、闇社会に足を踏み入れた。

柴咲は山本を我が子のように可愛がり、山本もまた柴咲を実の父親のように慕った。血縁はなくとも、義理と人情が絆を結ぶ、任侠の世界。ただし、裏切れば容赦ない制裁を受ける。

一般人には到底耐えられない異常な世界だ。だが、世間からはじき出された者にとって、どこよりも居心地のよい場所なのかもしれない。山本は、水を得た魚のようにヤクザ街道を邁進し、柴咲組での地歩を固めていく。

1999年、2005年、2019年という3つの時代から構成される本作。第1章では、山本がヤクザになるまでの経緯、第2章では、敵対する組織との熾烈な抗争、そして第3章では、若頭の身代わりに服役した山本の出所後が描かれる。

第2章から第3章まで14年。この間に、ヤクザを取り巻く状況は激変してしまう。暴対法(暴力団対策法)が強化され、ヤクザは行き場を奪われていた。隆盛を誇った柴咲組も青息吐息である。

久しぶりに娑婆(しゃば)へ戻った山本は、柴咲組の没落ぶりに呆然とする。居場所を失くした山本は、再会した恋人の由香とともに、真っ当な人生を歩む決意をするのだが――。

いったんヤクザの世界に踏み込んだ者が、堅気の人間として生き直すことが、いかに困難であるか。足を洗おうとする者に対し、社会は何と冷酷で無情であることか。

山本役の綾野剛は、時代や環境に翻弄されながらも、愛を求め、家族に憧れる、人間としてのヤクザを、リアルかつ繊細に演じ、見る者の心を強く揺さぶる。

一方、柴咲役の舘ひろしは、温和な表情の奥に一触即発の暴力性を潜ませる組長を貫禄たっぷりに演じている。その圧倒的な存在感は、余人をもって代えがたし。さすがである。

ヤクザ社会に生きる人間の心に焦点を当てた、ヒューマンドラマ。既存のヤクザ映画とは一線を画す、革新的な作品だ。「新聞記者」(19)の藤井道人監督作品。

映画レビュー「ヤクザと家族 The Family」

ヤクザと家族 The Family

2021、日本

監督:藤井道人

出演:綾野剛、尾野真千子、北村有起哉、市原隼人、磯村勇斗 / 寺島しのぶ、舘ひろし

公開情報: 2021年1月29日 金曜日 より、 全国ロードショー

公式サイト:https://www.yakuzatokazoku.com/

コピーライト:© 2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会

配給:スターサンズ/KADOKAWA

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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