外国映画

映画レビュー「エンター・ザ・ボイド」

2020年11月22日
“輪廻転生”という仏教的テーマを、3D感覚のサイケデリックな映像の中に展開。舞台となった東京の刺激的な風景も見ものだ。

東京を舞台に“輪廻転生”

※「ルクス・エテルナ 永遠の光」公開中のギャスパー・ノエ監督作品「エンター・ザ・ボイド」(2010)公開時に書いたレビューを、一部加筆した上で掲載します。

デビュー作「カルネ」(94)、その続編にあたる「カノン」(98)、そして前作「アレックス」(02)と、つねに過激な内容と斬新な映像表現で、見る者に衝撃を与え続けてきたギャスパー・ノエ監督。

8年ぶりの監督作品「エンター・ザ・ボイド」では、“輪廻転生”という仏教的テーマを、3D感覚のサイケデリックな映像の中に展開し、これまで以上に刺激的な世界を現出させている。

舞台は、東京・新宿の歌舞伎町。ドラッグのディーラーとして金を稼いでいるオスカーは、ナイトクラブでストリッパーをしている妹のリンダと、古びたマンションで共同生活を送っている。

ある日、オスカーは友人のビクターから依頼され、VOIDというバーにドラッグを届けに行くが、警察のガサ入れに遭い、逃げ込んだトイレで銃撃される。

死に行くオスカーの肉体から魂が離脱。脱け出た魂は、最愛の妹リンダを追って新宿の街を彷徨い始める。自分の死を嘆き悲しんで自殺をはかるリンダ、彼女にストリッパーの仕事を斡旋したマリオとの恋愛の末に堕胎するリンダ……。

愛するリンダの一挙一動を見つめながら、オスカーの脳裏にリンダや両親と過ごした幸せな日々が甦る。しかし、その幸福な思い出を、両親の交通事故死という悪夢が断ち切る。

さらに、両親のセックス場面、ビクターの母親との情事など、幼年期から射殺される寸前まで、オスカーのさまざまな記憶を挿入しながら、物語は、魂として浮遊するオスカーが見つめる風景の中を進行していく。

魂ゆえに、室内も屋外も移動は自在。その自在な動きを完璧に視覚化してみせたカメラワークが見事だ。

ジグザグに曲がりくねった歌舞伎町の裏通りを、真俯瞰から超低空で移動撮影。離れ業としか言いようのないテクニックである。

ドラッグの幻覚体験や臨死体験を表現したサイケデリックなシーンも、経験がないので何とも言えないものの、おそらくこういう感じなのだろうと思わせる、リアルな映像に仕上げられている。

「アレックス」に続きトーマ・バンガルテルが担当した電子音楽と相まって、見る者を確実に別世界へと連れ出してくれる。

終盤、オスカーは、夜の新宿から徐々に高度を上げながら南へと移動。東京タワーの真上を通過し、東京湾の上空に達すると、今度は急降下。ホテルの前に止まった一台のタクシーに接近する。

タクシーには久しぶりに再会したらしいリンダとマリオの姿があった。2人はホテルに入っていく。LOVE HOTELというネオンの輝くそのホテルにオスカーも入る。

そこには、各部屋で無数の男女がセックスしている光景が広がっている。リンダもマリオと体を重ね合う。オスカーはリンダの内部に入り込む。ここから“輪廻転生”へと至るエンディングの展開は圧巻だ。

セックスとドラッグの猥雑な世界を、生と死の崇高な次元へと転換し、スタイリッシュな映像作品へと仕立て上げたギャスパー・ノエ監督。その卓越した才能に舌を巻く。

エンター・ザ・ボイド

2010、フランス

監督:ギャスパー・ノエ

出演:ナサニエル・ブラウン、バス・デ・ラ・ウエルタ、シリル・ロイ

コピーライト:© 2010 FIDELITE FILMS – WILD BUNCH – LES FILM DE LA ZONE - ESSENTIAL FILMPRODUKTION – BIM DISTRIBUZIONE – BUF COMPAGNIE

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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