外国映画

映画レビュー「ストックホルム・ケース」

2020年11月5日
被害者が犯人に親密な感情を抱く――。“ストックホルム症候群”を題材とした、スリリングかつユーモラスな犯罪サスペンス。

被害者が犯人を好きになる

1973年、ストックホルム。長髪にカウボーイハット。見るからにアメリカ人っぽい男が、スタスタと銀行に入って行く。そして、バッグからマシンガンを取り出すや、天井に向けて発砲する。恐怖に凍りついた女子行員は、たちまち人質に取られてしまう。

快テンポのオープニングである。男の名はカイ・ハンソン。というのは偽名で、本名はラース・ニストロム。実はれっきとしたスウェーデン人だ。

ラースは、人質と引き換えに、ムショ仲間のグンナーを刑務所から釈放し、百万ドルと防弾チョッキ、そして「ブリット」でスティーブ・マックイーンが乗っていたマスタングを用意するよう、警察に要求する。

もちろん、警察側も易々と応じるわけがない。グンナーを仲介役として解放した後、虎視眈々と反撃のチャンスを窺うのだが――。

ラースを中心とした籠城組5人と警察側との、あの手この手の駆け引きをスリリングかつユーモラスに描いたクライム・サスペンスである。

ラース役は、イーサン・ホーク。監督のロバート・バドローとは、チェット・ベイカーの伝記映画「ブルーに生まれついて」(15)でもタッグを組み、絶品の演技を見せたが、本作でも、衝動的でクレイジーではあるが、実は心根がやさしく、憎めない男を、魅力的に演じている。

一方、人質の一人となる女子行員のビアンカには、「セブン・シスターズ」(17)で一人七役をこなした演技派、ノオミ・ラパス。保守的で気弱だが、ちょっと天然気味の既婚女性を、こちらも実にチャーミングに演じている。

このラース=イーサン・ホークと、ビアンカ=ノオミ・ラパス。二人は、籠城を続けるうちに、心を通わせ、好意以上の感情を抱くようになる。

犯人と被害者が長時間ともに過ごすうち、相手との間に親密な感情を育んでいくことを“ストックホルム症候群”というが、本作はその語源となった実在の事件をもとに作られている。

人質にとっては一刻も早く抜け出したいはずの監禁状態。それが一種のコミューンのような居心地よさに変わり、共犯関係を生み出していく感じが、70年代のファッションやボブ・ディランの曲と相まって、見る者の羨望めいた気持ちをかき立てる。

「どういうわけか、あの出来事が忘れられないの」というビアンカのセリフにキュンとさせられた。

ストックホルム・ケース

2018、カナダ/スウェーデン

監督:ロバート・バドロー

出演:イーサン・ホーク、ノオミ・ラパス、マーク・ストロング

公開情報: 2020年11月6日 金曜日 より、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネマート新宿、UPLINK吉祥寺他 全国ロードショー

公式サイト:http://www.transformer.co.jp/m/stockholmcase/

コピーライト:© 2018 Bankdrama Film Ltd. & Chimney Group. All rights reserved.

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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