外国映画

映画レビュー「SKIN/スキン」

2020年6月25日
極悪なネオナチ男が、更生を決意する。だが、組織はそれを許さない。執拗な脅迫と暴力は、愛する女性にも及び――。

レイシストの苦難と再生

顔面いっぱいに禍々(まがまが)しいタトゥーを彫り込んだ、筋金入りのレイシスト(人種差別主義者)、ブライオン(ジェイミー・ベル)。荒れた家庭に生まれ、虐待に苦しんでいたところ、北欧系のネオナチ組織に拾われ、主宰者夫婦を親代わりにして育った。

黒人、イスラム教徒、同性愛者をひたすら憎む。それは、何らかの信念があってのことではなく、組織で刷り込まれた狂信思想なのだ。

ヘイトに抗議する黒人少年が掴みかかってくれば、その何十倍もの暴力で応酬し、重傷を負わせる。相手に憐憫の情を抱くことなどなく、もちろん反省もしない。

暴力と快楽にふける刹那的人生。ところが、子持ちの女性ジュリー(ダニエル・マクドナルド)に恋をしたことで、生き方が変わる。

ネオナチ女といるより、ジュリーと一緒のほうがはるかに楽しい。しだいにジュリーやその娘たちと過ごす時間が増えていく。組織内にいることが疎ましくなっていく。

人間的感情に目覚め、平穏な生活を求めるブライオンは、組織からの脱会を図るのだが――。

道は限りなく険しい。逃げても逃げても追ってくる組織。その執拗な妨害と襲撃は、ブライオンばかりでなく、ジュリーや娘たちの生命をも脅かす。夜間の銃撃、愛犬の惨殺など、“裏切者”に対する容赦のない仕打ちは、マフィアさながらだ。

さらに、もう一つ深刻な問題がある。タトゥーだ。顔面いっぱいに彫り込まれたタトゥーに刻印されたネオナチのメッセージ。これがある限り、社会はブライオンを受け入れてくれない。

この呪わしいトゥーの除去は、本作のハイライトであり、感動的なラストシーンを導く重要なステップともなっている。

ブライオンの脱会をひそかに手助けし、タトゥー除去にも尽力してくれるのは、反ヘイト団体のジェンキンス(マイク・コルター)。本作のキーパーソンでもある黒人のジェンキンスとの友情は、ジュリーとの愛情と同等、あるいはそれ以上に、ブライオンの行動を支える原動力となっている。

憎悪の対象だったジェンキンスが、最後は無二の親友へ。トニー・カーティスとシドニー・ポワチエが共演した名作「手錠のまゝの脱獄」(58)のメッセージが、今なお反復され続けることに、溜め息が出る。

ともあれ、世界中にヘイトが広がり、各国で悲惨な事件が起きている今日、こういう作品が公開されることの意味は大きい。

実話の映画化だが、資金不足のため、企画から実現までに7年かかったという本作。製作資金を募るために、同じテーマで短編「SKIN」(2018)を製作したが、これが大反響を呼んだ。

暴力が暴力を増幅させる悲劇の連鎖を、鮮烈かつ簡潔に描いた同作は、2019年アカデミー賞で短編映画賞を受賞。今回、一部劇場で期間・上映会限定の上、同時上映される。

SKIN/スキン

2019、アメリカ

監督:ガイ・ナティーヴ

出演:ジェイミー・ベル、ダニエル・マクドナルド、ダニエル・ヘンシュオール、ビル・キャンプ、マイク・コルター、ヴェラ・ファーミガ

公開情報: 2020年6月26日 金曜日 より、新宿シネマカリテ、 ホワイト シネクイント、アップリンク吉祥寺他 全国ロードショー

『SKIN 短編』(2018、アメリカ)

監督:ガイ・ナティーヴ
出演:ジョナサン・タッカー、ジャクソン・ロバート・スコット、ダニエル・マクドナルド

公式サイト:https://a24films.com/films/skin

コピーライト:© 2019 SF Film, LLC. All Rights Reserved.

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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