日本映画

映画レビュー「許された子どもたち」

2020年5月30日
無罪になったがゆえに追い詰められていく少年と、過剰な愛ゆえに息子をスポイルしてしまった母との、受難の物語。

罪を免れた少年の受難劇

発端は、ありふれた“いじめ”である。少年グループにとっては、ルーティンワークであったろう。ほどほどで切り上げるつもりだったのではないか。

ところが、魔が差したというのか。迂闊(うかつ)にも殺してしまったのである。小動物に打撃を加えて遊んでいたら、うっかり死に至らしめてしまったような、唐突で、まるで冗談のような、あっけない殺人。

凶器は、被害者の少年に作らせた割り箸製のボウガン。反抗されたので、罰を加えたかった。仲間たちにタフさをアピールしたかった。それで引き金を引いたら、不運にも急所に命中してしまった。そんなところかもしれない。しかし、結果はあまりに重大だ。

凶器を始末し、知らぬふりを決め込むが、警察の目はごまかせなかった。加害者少年は自供し、収監される。

だが、母親は黙っていない。敏腕の女性弁護士からのサポートを得て、攻勢に転じるのだ。口を割っていた仲間の少年に証言を撤回させ、息子のアリバイを捏造。不処分へと持ち込む。

要するに無罪放免。だが、世間は許さない。容赦ないネットリンチ。自宅にはメディアや野次馬が押し寄せる。外壁にはびっしりと落書き。

地獄の始まりである。殺人という凶悪な罪を犯した少年が、少年法にも助けられ、無罪となったことで、解放されるどころか、苦難の道を歩むという皮肉。

冒頭の残酷な殺人シーンが目に焼き付いているなら、少年に向けられる世間の攻撃は、当然の報いと感じられるだろう。しかし、責められるのは少年だけではない。

裁判シーンでは、後列に座る被害者の両親が悲しみと悔しさに打ちひしがれる中、傲然たる表情で“勝利”を噛みしめていた母親。息子を無罪に仕立て上げたことに微塵の後悔もないのだろう。

息子が加害者であるかどうかは、彼女にとって問題ではないのだ。ただ、愛する息子を犯罪者にはしたくない。幸せになってほしい。それだけなのだ。そんな彼女を世間が攻撃するのは当然だ。

息子を守りたいという一心。この点では、ポン・ジュノ監督の「母なる証明」(2009)と共通しているが、本作における母親が異様なのは、犯罪事実に目を向けることなく、盲目的に息子を擁護し続ける不条理さにある。

13歳の中学生である加害者少年は、無条件に自分を肯定する母親に真相を告げることさえできず、ひたすら振り回される。ある意味、被害者とも言えるだろう。

そんな少年が転校先で一人の少女と知り合い、初めて心を開く。正体が暴かれて、再び窮地に追い込まれた少年の人生が、少女との交流によって、少しだけ変化するが――。

無罪になったがゆえにかえって追い詰められていく少年と、過剰な愛ゆえに息子をスポイルしてしまった母との、受難の物語。

いじめ、少年犯罪、加害者家族、被害者家族、ネットリンチなど、今日的問題も網羅されており、加害者、被害者、家族、遺族、傍観者など、多様な視点から見て、考えて、論じたくなる作品だ。

許された子どもたち

2020、日本

監督:内藤瑛亮

出演:上村侑、黒岩よし、名倉雪乃、地曵豪、門田麻衣子、三原哲郎、相馬絵美

公開情報: 2020年6月1日 月曜日 より、ユーロスペース他 全国ロードショー

公式サイト:http://yurusaretakodomotachi.w-lab.jp/

コピーライト:© 2020「許された子どもたち」製作委員会(PG12)

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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