外国映画

映画レビュー「レ・ミゼラブル」

2020年2月27日
パリ郊外の犯罪多発地区。少年の些細な犯罪が、一触即発の危機を招く。打開を図る警察は大きな失態を犯し、窮地に追い込まれる。

社会の底辺をリアルに描く

パリ郊外の町、モンフェルメイユ。ヴィクトル・ユゴーの小説「レ・ミゼラブル(「(あゝ無情」の邦題も有名)」の舞台としても知られる町だ。

町の集合住宅には主に移民や黒人が住み、スラム化が進んでいる。ムスリム系、黒人系のギャング集団が対立し、薬物絡みの犯罪が多発。まさに、ミゼラブル(悲惨)な状況に置かれた町である。

警察の犯罪防止班も、まともに機能しているとは言い難い。ギャングたちと馴れ合いながら、小さなトラブルを解決するのみで、根源的な悪に対しては見て見ぬふりを決め込んでいるのだ。

そんな犯罪防止班に赴任してきたのが、本作の主人公となるステファン。古株の白人クリスや黒人グワダとチームを組むが、いかにも乱暴で礼状も取らない同僚の捜査手法に戸惑いを隠せない。

それでも少しずつ順応し、ステファンはチームの一員として、一人前の仕事をこなし始める。ところが、ある日、少年がサーカス団のライオンの子を盗むという事件が勃発。これをきっかけに、犯罪防止班は絶体絶命の窮地に追い込まれていく――。

少年がライオンの子を盗んだことで、ギャング同士は抗争寸前の状態へ。ステファンらは何とか食い止めようとするが、少年らの思わぬ抵抗に遭い、大失態を犯してしまう。しかも、その一部始終を、ドローンで撮影されてしまう。

次々とトラブルが偶発し、追い詰められていく犯罪防止班。ありとあらゆる手を尽くし、失態のもみ消しを図っていく姿が、緊迫感たっぷりに描かれる。

映画の基調を成しているのは、絶望的なまでにミゼラブルな環境だ。生まれたときから貧困と犯罪の中で育ち、そこからの脱出など夢見ることもできないような、絶対的閉塞感。

その如何ともしがたい状況を、現実感あふれる映像で再現したのは、モンフェルメイユ出身のラジ・リ監督だ。この町の何もかも知り尽くしたリ監督だからこそ可能だったのだろう、生々しい空気感の醸成、血肉通った人物造型は、本作に圧倒的な説得力を与えている。

とくに、差別語と卑猥語を乱発する警官同士の会話のリアリティは、10歳で初めて警官から職務質問を受けたというリ監督ならではと言えるだろう。

第72回カンヌ国際映画祭では、ポン・ジュノ監督の「パラサイト 半地下の家族」とパルムドールを争い、審査員賞を受賞している。

レ・ミゼラブル

2019、フランス

監督:ラジ・リ

出演:ダミアン・ボナール、アレクシス・マネンティ、ジェブリル・ゾンガ、ジャンヌ・バリバール

公開情報: 2020年2月28日 金曜日 より、新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町他 全国ロードショー

コピーライト:© SRAB FILMS LYLY FILMS RECTANGLE PRODUCTIONS

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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