右岸派のゴダールやトリュフォーに先駆けて、左岸派のアニエス・ヴァルダが撮ったヌーヴェルヴァーグの記念碑的作品。

交わらない二つのストーリー

ポワント・クールト。直訳すると、短い岬。フランス南部の地中海に面した漁村だ。本作を監督したアニエス・ヴァルダが、第二次世界大戦中に家族で疎開していた場所である。

ヴァルダにとって、少女時代の記憶が染みついたこの村。人々は漁業で生計を立てているが、今や海は汚染され、政府は漁を制限している。

そうはいっても、唯々諾々と従っていては、暮らしが成り立たない。漁民たちはバレないよう、こっそり禁漁区にくり出しては、汚染魚を捕獲している。

だが、油断は禁物。衛生検査官たちが、抜き打ち調査にやってくるからだ。パリっとしたスーツに身を包んだ、いかにも地元民とは異質な男たちの姿は、まるでハリウッドの犯罪映画のよう。一方、彼らの目をかいくぐる漁師たちは、ナチスの追及を巧みにかわすレジスタンスのようだ。

映画は、彼ら村人の生活ぶりをドキュメンタリーふうにスケッチしていく。

子だくさんの母親が、体調を崩した子を医者に診せたときは手遅れで、あっさり死なせてしまうエピソード。

禁漁区で居眠りしてしまった若者が、逃げ遅れ、収監されるが、釈放後、水上槍試合で大活躍。娘との結婚に反対だった父親が、手のひら返しで若者を絶賛するエピソード。

生、死、恋。人間のさまざまな営みが、生々しい映像の中に活写されていく。
しかし、本作にはもう一つ、全くテイストの異なるストーリーが組み込まれている。

久々に帰郷した男と、その妻の物語である。パリからやってきた二人は、服装も洗練され、物腰にも品がある。会話の内容は、とびきり抽象的で観念的だ。何となく浮世離れして見える。

実は、男の浮気が原因で、夫婦関係は危機に瀕している。男は、関係修復のために妻を自分の故郷へと誘ったようである。

二人は男の友人宅に宿泊する。来客用にしつらえたのか、案内された部屋はホテルのようにピカピカ。だが、水道はまだ通じていない。そのチグハグさに、思わず笑ってしまう。

映画は、貧しい村人たちのスケッチと、都会のカップルのストーリーを、交互に見せていく。どちらかが、一方を補完するというわけではなく、それぞれは終盤まで独立したまま、交わることがない。

交わらないという点では、夫と妻の視線もそうだ。夫の浮気で距離ができた二人の関係を暗示するように、二人の2ショット画面では、相手の視線を避けるかのようなポジションが取られている。

向き合うでも、背け合うでもなく、直角にズレた形で相手の視線を外す、幾何学的構図が印象的だ。ほかにも、二人が橋を渡るときの足元のクロースアップや、水に浮かぶ猫の死骸など、鋭い視線でとらえられた映像の数々は、ヴァルダの写真家としての才気を感じさせる。映画は秒速24コマの写真芸術であることを、改めて思い起こさせてくれる作品である。

終局、独立を保っていた二つのストーリーは、ようやく合流し、未完のまま先へと流れていく。鮮やかなエンディングである。

ゴダールやトリュフォー、シャブロルなどが処女作を発表する何年も前に、これほど“新しい”作品が誕生していた事実に、改めて驚かざるを得ない。

『ラ・ポワント・クールト』(1954、フランス)

監督:アニエス・ヴァルダ
出演:フィリップ・ノワレ、シルヴィア・モンフォール

2019年12月21日(土)より、シアター・イメージフォーラム他全国ロードショー。「アニエスによるヴァルダ」「ダゲール街の人々」も同時公開。

公式サイト:http://www.zaziefilms.com/agnesvarda/

コピーライト:© 1994 AGNES VARDA ET ENFANTS

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