外国映画

映画レビュー「パリの恋人たち」

2019年12月12日
親友の死をきっかけに男と女が再会する。女の息子は母が父を殺したと信じている。親友の妹は男に夢中。さて、何が起こるか。

もつれた恋をほぐすには

マリアンヌとアベルは、同棲するカップル。ある日、出勤しようとするアベルを「話があるの」とマリアンヌが呼び止める。

「妊娠したの」。アベルの子ではなく、親友であるポールの子。10日後に結婚する。だから、それまでに部屋を出てくれというわけだ。

青天の霹靂。普通ならショックと怒りとで心乱れ、出勤どころではないだろう。
ところが、意外なことに、アベルはショックを受けていない。「これで別れられる」。涼しい顔なのだ。

 

嫌いじゃないけど、何となく倦怠期。だから、そろそろ潮時。そう考えていたのかもしれない。このへん、いかにもフランス的で、パリっぽい。

かくして、円満に別れるマリアンヌとアベル。さて、二人はその後……、とはいかず、ここで映画は大きく時間を飛ばす。

アベルはポールが突然死したという訃報を受ける。葬式でマリアンヌと久々の再会。

マリアンヌの腹の中にいた子供は、小学生くらいの少年に成長している。ミステリー好きな子で、父の死も「母が殺したから」と信じている。

離れた場所からアベルを見つめるもう一人の人物。ポールの妹のエヴだ。少女時代からアベルに憧れ、ストーカーのように後を追いかけてはケータイで写真を撮りまくっていた。ときには車の後部座席に潜むという大胆な真似も。

ところがそんなエヴの行動に、アベルは少しも気づかなかった。要するに、眼中になかったのだ。

マリアンヌの家で再び一緒に暮らし始めるアベル。エヴの猛烈なアプローチは続く。見かねたマリアンヌは「寝てみたら?」とアベルを唆す。素直なアベルはさっそくエヴのアパートに転がり込むが――。

どこまで本気か分からないアベルとマリアンヌ。アベルにご執心のエヴ。母の殺人を疑い、アベルを憎む息子のジョゼフ。四者四様の立場や思いが、もつれ、結ばれ、解けて、もつれて、最後はしかるべき調和点へと落着する。

監督はルイ・ガレル。ポスト・ヌーヴェルヴァーグの代表作家であるフィリップ・ガレルの息子である。ひんやりと冷たく、心がヒリヒリするような作風のフィリップに対し、いったい息子はどんな映画を撮るのか。

興味津々でスクリーンに向き合ったが、偉大な父の影など全く感じさせない独自のスタイルを持つ作品だったので、驚き、興奮した。

三角関係、四角関係という、いわばフランス映画お得意の題材に子供を絡ませ、
サスペンスあり、笑いありの、洒落たラブストーリーに仕上げている。

アベル、マリアンヌ、エヴ。この3人の心の声を使うことで、さりげなく視点を転換しながら、ストーリーを進めていく手法も鮮やかだ。

パリの恋人たち

2018、フランス

監督:ルイ・ガレル

出演:レティシア・カスタ、リリー=ローズ・デップ、ジョゼフ・エンゲル、ルイ・ガレル

公開情報: 2019年12月13日 金曜日 より、Bunkamuraル・シネマ他 全国ロードショー

公式サイト:https://senlisfilms.jp/parikoi/

コピーライト:© 2018 Why Not Productions

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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