日本映画

映画レビュー「解放区」

2019年10月17日
大阪・釜ヶ崎をリアルに描き、行政から修正を求められた問題作。一体、どこが引っかかったのか。何を覆い隠したかったのか。

大阪・釜ヶ崎の“リアル”に迫る

引きこもりの青年を取材するため、映像制作会社の撮影クルーが、青年の自宅を訪れる。青年は取材を嫌がっており、母親もそう説明するのだが、ディレクターは諦めない。ディレクターは、いかにも気弱そうなADの須山に、青年の引きこもる部屋へ強行突入するよう命じる。

不承不承といった態で、青年の部屋へと向かい、何とか入室に成功する須山。意外なことに、須山は音楽の話で青年と意気投合する。

“引きこもり”というテーマなど忘れたかのように、青年との音楽談議に没頭する須山に、ディレクターは激怒。思わず手が出てしまう。

積もり積もったディレクターへの反感がこれで爆発。須山は、仕事を放り出し、失踪してしまう。

須山が向かった先は、大阪・釜ヶ崎。かつて出会った希望のない少年は、今どうしているのか。再会して取材し、ドキュメンタリーを撮ろうというのだ。

しかし、自分一人だけでは手に余る。そこで、あの引きこもりの青年を呼び出し、助手としてこき使うことに。

気のいい青年は、須山の手足となって働くが、須山は約束のギャラを支払おうとしない。

少年の居場所がつかめないまま、時間だけが過ぎていく。酔った勢いで女と行きずりの関係を持つ須山。だが、その女に金を盗られてしまう――。

主人公の須山に扮するのは、本作の監督でもある太田信吾。最初のうちこそ、志を持ったドキュメンタリー作家の卵のように見えるが、引きこもりの青年を搾取し、うまい汁を吸おうとする姿は、人間失格者のようにも思える。そんな屈折した男を、太田は絶妙のリアリティで演じている。

取材者としてドヤ街に踏み込んだ須山は、次第にこの街の魔力に絡めとられ、理性を失い、出口のない名路へと迷い込んでいく。

日雇い仕事の現場、簡易宿泊所、覚醒剤の売人など、釜ヶ崎の街や、そこに生きる人々の描写が生々しいのはもちろんだが、須山をはじめ登場人物たちの演技が、虚構なのか真実なのか、判別できないほど真に迫っている。

ドキュメンタリーを撮りに釜ヶ崎を訪れた青年を追ったドキュメンタリーなのではと錯覚するほどだ。

2014年、大阪市からの助成金を得て製作をスタートした本作。だが、完成した映画は市から修正を要求される。納得できない太田監督は、助成金を返還し、本作を死守する。ところが、東京国際映画祭など数度の上映に止まり、劇場公開には至らなかった。

今回、撮影から5年の歳月を経て、ようやく一般公開される本作。この映画の一体どこに修正要求が入ったのか。大阪市は何を問題視したのか。名古屋市で起きた「表現の不自由展」騒動とも重なる“検閲”の問題について考える、一つの契機にもなる作品だ。

映画レビュー「解放区」

解放区

2014、日本

監督:太田信吾

出演:太田信吾、本山大、山口遥、琥珀うた、佐藤秋、岸建太朗、KURA、朝倉太郎、鈴木宏侑、籾山昌徳、本山純子

公開情報: 2019年10月18日 金曜日 より、テアトル新宿他 全国ロードショー

コピーライト:© 2019「解放区」上映委員会

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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