民族や宗教が違えば、恋愛も結婚もタブー。抗い難い現実に、恋する二人はどう立ち向かっていくか。ヤスミン・アフマド監督の遺作。

恋と友情は“壁”を越えるか

※「細い目」公開中のヤスミン・アフマド監督作品「タレンタイム~優しい歌」(2009)が第22回東京国際映画祭で上映された際に書いたレビューを、一部加筆した上で掲載します。

学内オーディション“タレンタイム”に出場する高校生たちの恋、友情、家族愛を、爽やかなタッチで描いた青春群像劇。2009年7月に急逝したマレーシアの女性監督ヤスミン・アフマドの遺作となった作品である。

主要な登場人物は4人。裕福でリベラルな家庭の娘で、英国の血が混じったマレー系のムルー。末期がんの母を看病しながらも優秀な成績を収める、マレー系の男子生徒ハフィズ。教育熱心なエリート家庭の息子で中国系のカーホウ。そして聴覚に障害を持つインド系の男子生徒マヘシュ。

優勝を争うのは、ムルーとハフィズとカーホウの3人だ。ハフィズとカーホウは2人ともムルーに恋心を抱いているライバル同士。オーディションには参加しないマヘシュは、ムルーをスクーターで送迎する役目を受け持つが、彼も実はムルーに恋している。マヘシュとムルーはスクーターの二人乗りを続けるうち、いつしか恋し合う仲となる。

ところが、イスラム教のマレー系と、ヒンズー教のインド系との間で、恋愛や結婚はタブー。この抗い難い現実に、恋する2人がどう立ち向かっていくかが、この映画の最大の焦点となっている。

マヘシュの叔父も、かつて異教徒の女性と恋に落ちた過去があった。しかし、家族から猛反対を受け交際をあきらめざるを得なかった。マヘシュも叔父同様、“壁”を越えることはできないのだろうか。

決勝当日。マヘシュとの交際を禁じられたムルーは、苦しさに耐えかねて演奏を中断すると、ステージから下りてしまう。一方、母親を亡くしたばかりのハフィズは、悲しみを押し殺してステージに立つ。

はたして栄冠は誰の手にわたるのだろうか。そして、ムルーとマヘシュの恋の行方は?

民族や宗教の問題は根が深い。リアリズムを貫けば重苦しい作品となるところを、この監督はウィットやユーモアをたっぷりと交え、さらにはファンタジーまで加えることにより、爽やかで希望にあふれた作品に仕上げている。

音楽を担当しているのは、「グブラ」(05)に楽曲を提供して以来、監督とコラボレーションを重ねてきた、ミュージシャンのピート・テオ。メインとして使われた「エンジェル」「ジャスト・ワン・ボーイ」をはじめ、印象的な楽曲の数々は、本作の大きな魅力の一つとなっている。

それにしてもヤスミン・アフマド監督、享年51歳は若すぎる。

『タレンタイム~優しい歌』(2009、マレーシア)

監督:ヤスミン・アフマド
出演:パメラ・チョン、マヘシュ・ジュガル・キショール、モハマド・シャフィー・ナスウィプ、ハワード・ホン・カーホウ、ハリス・イスカンダル、ミスリナ・ムスタファ