外国映画

映画レビュー「細い目」

2019年10月9日
中国系の少年がマレー系の少女に恋をした。少女も少年に恋をした。運命の恋だった。だが、少年には少女に言えない秘密があった。

マレー系の少女と中国系の少年が恋をした

金城武の熱心なファンである、マレー系の少女オーキッド。露店で海賊版の映画ソフト(VCD)を販売している、中国系の少年ジェイソン。

仕事中に、オーキッドを見かけた瞬間、ジェイソンはオーキッドに恋をする。オーキッドもジェイソンに好意を抱き、たちまち二人はデートする仲になる。

運命の恋である。階層も違うし、宗教も違う二人だが、彼らにとってそれは何の妨げにもならない。

彼らの家庭も、そんな二人の交際に肯定的だ。オーキッドの同級生には、“細い目”(マレー人が中国人をからかう言い方)のジェイソンと付き合うことに反対する者もいるが、オーキッドの気持ちが揺らぐことはない。

したがって、彼らの恋路を妨げるものは何もないように思える。だが、実は、ジェイソンにはひた隠しにしている秘密があり、それがもとで、二人の関係は危機に瀕する――。

こういう設定の恋愛映画は、本作の製作当時、マレーシアには見られないものだったらしい。人種・宗教の異なるもの同士の恋愛。しかも、家族が反対しないどころか、後押しさえする。マレーシア映画の常識を破る作品だった。

“夢物語”との批評もあったようで、実際、全体としてリアリスティックに描かれた本作ではあるが、随所に非現実的な表現が散りばめられてもいる。

たとえば、回想シーンでもないのに、幼い時期のジェイソンとオーキッドが、ふっと画面に登場する瞬間がある。それは二人の恋が運命づけられていることを示唆する表現なのだが、いかにも唐突でシュールである。

このようなファンタスティックな描写は、終盤にジェイソンとオーキッドが電話で話す、クライマックス・シーンにも現れる。

リアルで生々しい映像に、空想や幻想をすっと滑り込ませる演出は、ヤスミン・アフマド監督ならではのスタイルだ。

ヤスミン・アフマド監督が亡くなったのは10年前。遺作となった「タレンタイム~優しい歌」(2009)を東京国際映画祭で見て、衝撃を受けた。今回、「細い目」を初めて見て、再び打ちのめされた。類まれなる才能の喪失を、改めて残念に思う。

『細い目』(2004、マレーシア)

監督:ヤスミン・アフマド
出演:ン・チューセン、シャリファ・アマニ、ライナス・チャン、タン・メイ・リン、ハリス・イスカンダル、アイダ・ネリナ、アディバ・ヌール

2019年10月11日(金)より、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺他全国ロードショー。

公式サイト: http://moviola.jp/hosoime/

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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