外国映画

映画レビュー「帰れない二人」

2019年9月5日
男を守るため、女は発砲し、刑に服した。だが、出所した女を待っていたのは――。21世紀中国を舞台に展開する、壮大な愛の物語。

時代は変わっても愛は変わらない

石炭から石油へのエネルギー転換。大規模水力発電所の建設。オリンピックの招致……。大きな音を立てて、時代が変化していく。その変化の波は、義理と人情の世界に生きるチャオとビンの元にも押し寄せていた。

2001年、中国・山西省の中都市・大同(ダートン)。かつて炭鉱の町として栄えたが、今は石油に主役の座を奪われ、先行きは暗い。チャオの父親も仕事がなく、酒浸りの毎日だ。

チャオの情婦・ビンはヤクザ者。違法なシノギで暮らしを立てているが、明日のないこの町では、稼ぎも先細るばかりだ。チャオは、景気の悪い大同を離れ、鉱山局が移転する新疆(シンジャン)へ移住しようと誘うが、ビンは気乗りしないようだ。

ある日、そんな二人がアクシデントに見舞われる。ビンがチンピラの若者たちに襲撃されたのだ。あわや殺されかけたビンを救ったのは、チャオだった。ピストルを発砲し威嚇。チンピラを退散させたのだ。

ビンを助けるため、自らの手を汚したチャオは、逮捕され、収監される。そして、5年の刑期を終えたチャオは、1年の刑で出所したビンを訪ねて奉節(フォンジェ)に渡るのだが――。

前作「山河ノスタルジア」(2015)に続き、ジャ・ジャンクー監督が、公私のパートナーたるチャオ・タオを主役に撮り上げた壮大な抒情詩。

2001年から2018年にかけての激変する中国。その自然景観や都市風景をスケール感豊かに写し出しつつ、時代に取り残された主人公たちの悲哀を、情感たっぷりに描き上げていく。

「長江哀歌」(2006)の舞台でもあった奉節の壮大な光景が圧巻だ。だが、三峡ダム建設で、この歴史ある古都は水没してしまう。「数年後に再訪する頃、景色の一部は川底の遺産となっているでしょう」。無情な観光アナウンスが船内に流れる。

厳しい運命に翻弄されるチャオの人生も、奉節のように沈んで行ってもおかしくはなかったろう。普通の女だったら、そうなっていたに違いない。しかし、そこはさすがにヤクザの情婦と言うべきか。チャオはしたたかに生き抜くのである。

船内で女スリに身分証と金を盗られても、独力で取り返す。高級ホテルでは、裕福で女癖の悪そうな男に近づき、「妹が流産した」と脅して金をせしめる。タクシーバイクに乗れば、色仕掛けで油断させた隙にバイクを奪い、挙げ句にレイプ被害をでっち上げる。

簡単には挫けない女。再会したビンに愛人がいても、あきらめない。

金も力も失い、零落していくばかりのビンに対し、チャオは、ヤクザの女である自己のアイデンティティを決して失うことなく、毅然たる生き方を保ち続ける。ビンの情婦であり続けることも、チャオの決して妥協しない人生の一部なのかもしれない。

したたかだが一途。いじらしくもある。一筋縄ではいかない女性像を、圧倒的な存在感で演じたチャオ・タオの好演が光る、感動のメロドラマである。

『帰れない二人』(2018、中国/フランス)

監督:ジャ・ジャンクー
出演:チャオ・タオ、リャオ・ファン

2019年9月6日(金)より、Bunkamuraル・シネマ、新宿武蔵野館他全国ロードショー。

公式サイト:http://www.bitters.co.jp/kaerenai/

コピーライト:©2018 Xstream Pictures (Beijing) – MK Productions – ARTE France All rights reserved

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

この映画をAmazonで今すぐ観る

この投稿にはコメントがまだありません