外国映画

映画レビュー「COLD WAR あの歌、2つの心」

2019年6月27日
亡命した作曲家と、故国に留まった歌手。二人は再会と別離を重ねながら、愛し続ける。冷戦下に燃え上がる、究極のラブストーリー。

引き裂かれても愛は死なない

戦後、東西冷戦の時代。ワルシャワの舞踊団“マズレク”の幹部で作曲家・ピアニストのヴィクトルは、団員を選考するオーディションの席で、ズーラという金髪の少女に魅了される。

同席したダンス教師のイレーナは否定的だったが、ヴィクトルはズーラに卓越した歌唱の才能を見出すとともに、強い恋愛感情を抱く。父親殺しに関わった過去を持つズーラは、異性関係にも積極的。ちょっと危険な香りのする少女だ。

たちまち恋愛関係に陥る二人だったが、ズーラが“マズレク”の管理部長カチマレクに、西側寄りの音楽を志向するヴィクトルの言動を密告していたことが発覚。そのことを責めるヴィクトルがズーラのもとを去ろうとすると、すかさずズーラが水に飛び込む。

慌てて踵を返すヴィクトル。だが、何と、ズーラは仰向けに浮かびながら、「オヨヨー♪」と歌っているではないか。

ハッとさせ、次の瞬間、ホッとさせる演出。だが、それだけではない。この歌は、本作でたびたび歌われることになるポーランド民謡「2つの心」。二人の関係を象徴する重要な曲なのである。

物語は、1949年、ポーランドの村から始まり、51年のワルシャワ、52年の東ベルリン、54年のパリ、55年のユーゴスラビア、そしてまたパリと、めまぐるしく舞台を変えながら進行していく。その間、パリに亡命したヴィクトルとワルシャワに残ったズーラは、何度も再会と別離を繰り返す。

別離の間に、ヴィクトルは愛人をつくり、ズールは結婚してしまう。しかし、それでも、二人は互いを求め続ける。“マズレク”にパリ公演があれば、ズーラがヴィクトルを訪ね、そうでなければ、ヴィクトルがズーラを公演先まで追いかけるのだ。

年代と場所が移るたびに、画面の空気感が一変。映像と音楽の設計が素晴らしい。「ロック・アラウンド・ザ・クロック」が流れる中、ズーラがスカートを翻し、激しく踊りまくるシーンは見ものである。

しかし、前述したように、何より注目すべきは、ズーラの歌う「2つの心」だ。“マズレク”のステージで歌う「2つの心。」パリでヴィクトルと暮らすようになったズーラが、ジャジーなアレンジで歌う「2つの心」。フランス語で歌う「2つの心」。

それぞれに、その時々のヴィクトルに対するズーラの感情が込められ、心に沁みる。不滅の愛を歌うズーラ役、ヨアンナ・クーリクの演技が絶品だ。

 

パヴェウ・パヴリコフスキ監督の名を高からしめた「イーダ」(2013)と同様、白黒スタンダードの映像が、ゾクゾクするほど美しい。88分という短い時間の中を疾走していく1カット、1カットが、すべて芸術品。数奇な運命の終着点を示すラストまで、一瞬たりとも目を離すことができない。

『COLD WAR あの歌、2つの心』(2018、ポーランド/イギリス/フランス)

監督:パヴェウ・パヴリコフスキ
出演:ヨアンナ・クーリク、トマシュ・コット、アガタ・クレシャ、ボリス・シィツ、ジャンヌ・バリバール、セドリック・カーン

2019年6月28日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷他全国ロードショー。

公式サイト:https://coldwar-movie.jp/

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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