日本映画

映画レビュー「ワイルドツアー」

2019年3月29日
中3のタケとシュンは、植物のDNAを解析するワークショップに参加。女子大生のウメと一緒に、近くの森を探索する。

中学生が女子大生に恋をする

青春映画というべきか、恋愛映画というべきか。ワークショップで出会った女子大生と男子中学生が、恋にときめき、傷ついて、接近したり、離れたり……。

舞台となるのは、山口県山口市にあるアートセンター。「山口のDNA図鑑」というワークショップに参加する若者たちの2カ月を追った作品だ。

映画レビュー「ワイルドツアー」

植物のDNAを採取して解析し、植物図鑑としてまとめる。こんな作業が、今では簡単にできるらしい。アートセンターのスタッフが、参加者に道具の使い方などについて、オリエンテーションを済ませると、ただちにワークショップはスタートする。

映画レビュー「ワイルドツアー」

中学3年のタケは、ファシリテーター(進行役)として参加する大学生のウメと親しくなり、「ウメちゃん」「タケ」と呼び合う仲に。4歳も年上だが、童顔でチャーミング。そんなウメと友達になれて、タケはご満悦の様子だ。

ところが、遅れてやってきたシュンが仲間に加わることで、微妙な三角関係が生まれる。タケの親友だが、イケメンのシュン。ウメはシュンが気に入ったか、週末にDNA採取に行こうと誘う。

映画レビュー「ワイルドツアー」

受験を控えるシュンは躊躇するが、「受験勉強の気晴らしに」と迫られ、あっさり陥落。ちょっとした“逆ナン”だが、DNA採取という大義名分がある。

タケも加わった3人の“採取ハイキング”。ウメはシュンに甘えて見せたり、さりげなく手をつないだり。しかし、鈍感なタケは2人の距離に気づかず、無邪気にはしゃぐのだった――。

映画レビュー「ワイルドツアー」

主要な登場人物がもう1人いる。ウメと同じファシリエーターとして参加している山崎だ。ザキヤマという愛称で呼ばれており、ウメとは過去に恋愛関係があったようだ。タケとシュンに加えて、このザキヤマの存在も無視できない。

ザキヤマは4人の女子高校生とチームを組んでおり、その中の1人がザキヤマに異性として興味をいだいている。もさっとした外見だが、案外モテる男なのである。

この4人の主要な人物たちの心理を、ワークショップのさまざまな場面を通して、繊細に描き出しているところが、この映画の最大の魅力である。

ウメとシュンが2人きりで話している部屋に、タケとザキヤマが入ってくるシーンは、4人それぞれの心の動きを一瞬で表現し得ていて見事。

また、採取ハイキングの際にスマホで撮影した動画をモニターで見入るシュンの思いつめたような顔に、ウメの顔の映像が重なるシーンには、少年の純情にエロティックな欲望がにじみ、鮮烈な印象を残す。

小道具としてのスマホの使い方も巧みだ。全編にわたり、スマホで撮影した動画を送受信する場面がたびたび映し出されるが、送受信する行為自体に、それぞれの人物の心の動きが覗き見えるのである。

監督は、「きみの鳥はうたえる」(18)で絶賛を浴びた三宅唱。ほぼ演技経験のない中高生たちを起用して、フィクションの中に彼らのリアルな人生も記録し、比類のない作品世界を構築している。

『ワイルドツアー』(2018、日本)

監督:三宅唱
出演:伊藤帆乃花、安光隆太郎、栗林大輔

2019年3月30日(土)より、ユーロスペース他全国ロードショー。

公式サイト:https://special.ycam.jp/wildtour/

コピーライト:© Yamaguchi Center for Arts and Media [YCAM]

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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