外国映画

映画レビュー「漂うがごとく」

2019年3月22日
結婚したばかりの新妻が、夫とは対極の男と出会うことで、女に目覚める。初々しかった女が、欲望の女へと変身していく。

初々しい新妻から欲望の女へ

ヒロインであるズエン(ドー・ハイ・イエン)とハイ(グエン・ズイ・コア)は新婚の夫婦である。

知り合って3カ月でゴールインというスピード婚だったが、年下のハイはマザコンで子供っぽく、しかも性的に淡泊。大切な初夜も酔いつぶれて寝てしまい、その後もセックスレスが続いている。

ズエンは、そんなハイを愛していると思っている。だが、どう見ても、ミスフィットぶりは明らか。観客は、いずれ二人の関係が危機に陥るであろうことを予感するはずだ。

きっかけは、すぐにやってくる。結婚式を欠席した友人のカム(リン・ダン・ファム)を訪ねたズエンは、体調のよくないカムの代わりに、彼女の男友達であるトー(ジョニー・グエン)へ手紙を届けに行く。

ドアを開けるや、抱きつかれ、押し倒されるズエン。戸惑い、混乱しながらも、それまで経験したことのない感覚は、ズエンの中の“女”を目覚めさせる。一方、戯れのつもりだったトーも、ズエンに対し格別な感情をいだくようになる。

トーは、自分が企画した観光ツアーの通訳という名目で、ズエンに同行を求め、ズエンは迷った挙句、それを承諾する。

ここから、ストーリーは急転していく。

もともとは、偶然から生じたハプニング。それが、本気へと発展。やがてアクシデントを誘発し、ヒロインは引き返し不能な状況へと迷い込んでいく。自発的に行動するわけではなく、ただ巻き込まれ、流されていくズエンの姿は、まさに「漂うがごとく」である。

映画は、女に目覚め、変身していくズエンの行動を追うメイン・ストーリーを軸にしつつ、同じアパートの住人である少女とハイが親しくなっていく様子を、サブ・ストーリーとして展開。

さらに、ズエンが発見する古い写真と日記を通して、祖父の秘められたラブストーリーを挿入するなど、複数の物語を組み込むことで、ヒロインが漂流していく姿を、相対的に描き出そうとしている。

性的な描写はきわめて官能的。ズエンとトーが一線を越える場面、そしてズエンがホテルの部屋からカムに電話し、トーとの出来事を間接的、断片的に報告する場面。いずれも、生々しいエロティシズムにあふれ、陶然とさせられる。

トラン・アン・ユン監督「青いパパイヤの香り」(93)の衝撃を思い起こさせる傑作だ。

漂うがごとく

2009、ベトナム

監督:ブイ・タク・チュエン

出演:ドー・ハイ・イエン、リン・ダン・ファム、ジョニー・グエン、グエン・ズイ・コア

公開情報: 2019年3月23日 土曜日 より、新宿K’s cinema他 全国ロードショー

公式サイト:http://mapinc.jp/vietnam2films/

コピーライト:© Vietnam Feature Film Studio1,Acrobates Film

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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