外国映画

映画レビュー「あなたはまだ帰ってこない」

2019年2月21日
夫がゲシュタポに連行される。妻は、ゲシュタポの手先と密会しながら、夫の帰りを待ち続ける。やがて、夫はドイツへ移送される。

待ち続ける妻、乱れる女心

1944年、ナチス占領下のパリ。作家のマルグリットは、仲間たちとレジスタンス活動に参加していたが、夫のロベールがゲシュタポに連行されてしまう。

夫の消息を求めて、ナチス本部に通うマルグリット。だが、手がかりは得られず、不安な日々が続く。

そんなマルグリットに、ある男が接近してくる。ゲシュタポの手先として働くラビエ。敵側の人間ではあるが、文学好きで、作家であるマルグリットをリスペクトしてもいるようだ。

夫の情報を手に入れたいマルグリットは、ラビエに誘われるまま、密会を続ける。しかし、マルグリットの仲間であり愛人でもあるディオニスは、ラビエに対する不信感を拭えない。ある日、夫はドイツへ移送されたとの情報が飛び込んでくる――。

マルグリットとは、この映画の原作「苦悩」の作者であるマルグリット・デュラス、その人。夫のロベールも、愛人のディオニスも、実在の人物だ。日記をもとにした作品だそうだから、実話が相当部分を占めているに違いない。

“ゲシュタポに連行された夫を待ち続ける妻”。デュラスが脚本を書いた「かくも長き不在」(61)のモチーフでもあったが、本作のほうがはるかにリアルで生々しいのは、実話ベースゆえだろう。

たとえば、ゲシュタポの手先であるラビエとマルグリットとの関係。夫の情報入手のため、やむなく密会を重ねるというのは、建て前に過ぎない。

ブノワ・マジメル演じるラビエに、マルグリットは心惹かれていく。ラビエの電話を受けたマルグリットが、鏡に向かって入念に化粧する姿の、何と色っぽいことか。

そもそも、夫がありながら仲間のディオニスと情を通じてしまう、奔放な女性。ただひたすら夫を待ち続ける健気な妻、などではないのだ。実のところ、マルグリットは、心底から夫の帰還を望んでいるのかどうか。

だが、そんな不実な自分を、マルグリットは肯定しているわけではない。夫を裏切る自分の姿を、批判的に眺める、もう一人の自分がいる。

映画は、二つに引き裂かれたマルグリットを、一つの画面内で同時に映し出す。終盤、夫が帰還するクライマックスの場面でも、“夢想されたマルグリット”と、“現実のマルグリット”が、同じ画面に登場し、観客の心までかき乱す。

単純に割り切れない女心の真実を、効果的な映像表現で描き出した、エマニュエル・フィンケル監督の才気が光る一作だ。マルグリット役メラニー・ティエリーも好演。

『あなたはまだ帰ってこない』(2017、フランス=ベルギー=スイス)

監督: エマニュエル・フィンケル
出演:メラニー・ティエリー、ブノワ・マジメル、バンジャマン・ビオレ、グレゴワール・ルプランス=ランゲ、エマニュエル・ブルデュー

2019年2月22日(金)より、Bunkamuraル・シネマ他全国ロードショー。

公式サイト:http://hark3.com/anatawamada/

コピーライト:©2017 LES FILMS DU POISSON – CINEFRANCE – FRANCE 3 CINEMA – VERSUS PRODUCTION – NEED PRODUCTIONS

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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