外国映画

映画レビュー「マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!」

2019年1月4日
才能ある若者たちが、最先端のポップ・カルチャーを発信した60年代ロンドン。そのパワーとパッションを伝えるドキュメンタリー。

60年代ロンドンが世界を変えた

60年代半ば、ロンドンはポップ・カルチャーの中心地となった。“スウィンギング・ロンドン”と呼ばれ、ロックやファッションをはじめ、最先端の流行を、全世界に発信した。

ビートルズ、ローリング・ストーンズ、マリアンヌ・フェイスフル、ツィギー、メアリー・クヮント、デイヴィッド・ベイリー……。スターであり、アイドルであり、カリスマでもある若者たち。後に時代のアイコンとなった突出した才能が、一挙に出現し、燦然たる光を放ったのが、60年代のロンドンだった。

1つの都市に、短い期間で、これだけ多くのタレントが輩出した時代は、ほかにない。この前代未聞の文化現象は、英国社会そのものも一変させた。

「かつて労働者階級の人間は、ミッキーマウスのような存在だった」。こう語るのは、本作「マイ・ジェネレーション」のナヴィゲーターを務める俳優のマイケル・ケインである。要するにまともな人間扱いをされていなかったわけだ。その状況を一変させたのが60年代だったのだ。

才気とやる気にあふれた若者たちがロンドンに集まり、英国社会を覆っていた伝統や格式を吹き飛ばした。老人が支配する旧時代は崩壊し、代わりに若者が新しい時代を切り開いた。

デヴィッド・リーン監督の「逢びき」(45)で話される上品な英語が、「労働者階級の自分には理解できなかった」と笑うケイン。初の大役となった「ズール戦争」(64)は、「監督がアメリカ人だったから将校役にキャスティングされたが、イギリス人だったら出演できなかっただろう」と当時を振り返る。

労働者階級と上・中流階級との壁が崩れ、活力と創造性が爆発したロンドンの60年代。しかし、後半になると、暗雲が垂れ込め始める。ドラッグ問題だ。

ドノヴァン、キース・リチャーズ、ミック・ジャガー、マリアンヌ・フェイスフル、そしてブライアン・ジョーンズ。若者に影響力のある著名なミュージシャンがドラッグ摘発の標的となった。

ブライアンはストーンズから脱退後、ドラッグが原因とも言われる変死を遂げる。一時代を築いたビートルズはついに解散する。60年代の熱気は一気に冷め、ロンドンの黄金時代は終焉を迎える。

「60年代は若者が未来を作った唯一の時代。しかし、ドラッグをきっかけに崩壊した」とケインは語る。映画は一抹の寂しさをたたえて終わるが、トータルとして見れば、20世紀で最も若者のエネルギーがあふれていた時代を、わずか85分にダイジェストして見せてくれる、秀逸なドキュメンタリーと言える。

選曲のセンスがいい。旧時代的ロンドンを歌ったキンクスの「危険な街角(デッド・エンド・ストリート)」に始まり、作品タイトルともなっているザ・フーの「マイ・ジェネレーション」、そして終局に流れるストーンズの「無情の世界」まで、ステイタス・クォー、クリーム、ゾンビーズなど、60年代の風景や空気を描いた、最上のロックナンバーが、最高の音質で作品を彩る。

さらには、映像に登場するアーティストの豪華さ。インタビューに答えるマリアンヌ・フェイスフルやロジャー・ダルトリー、ポール・マッカートニー……。彼らが登場するアーカイヴ映像には、ブライアン・ジョーンズの姿もある。

60年代文化を生み出したヒーローは誰だったのか。記憶すべきは誰なのか。スウィンギング・ロンドンの核心をとらえた、見事な構成に唸らされる。

『マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!』(2018、イギリス)

監督:デイヴィッド・バッティ
出演:マイケル・ケイン、デイヴィッド・ベイリー、マリアンヌ・フェイスフル、ポール・マッカートニー、ツィギー、ロジャー・ダルトリー

2019 年 1 月 5 日(土)より、Bunkamura ル・シネマ他全国ロードショー。

コピーライト:(上から順に)
© Raymi Hero Productions 2017
Paul Popper Popperfoto Getty Images
David Redfern Redferns Getty Images
Photo by Stephan C ArchettiKeystone FeaturesHulton ArchiveGetty Images

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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