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映画レビュー「ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス」

2018年12月27日
70年代、挑発的なファッションで“パンクの女王”に君臨。77歳にしてなお輝き続けるカリスマ・デザイナーの素顔に迫る。

いまも衰えぬ“パンク精神”

ヴィヴィアン・ウエストウッドといえば、あの特徴的なロゴマークが思い浮かぶ。王冠という権威のシンボルが、天体のようなフォルムへと転換され、未来的なエネルギーを発散――。

衝撃的なパンク・ファッションで世に出たウエストウッドの面目躍如たる、実にカッコいいロゴである。

“パンクの女王”と呼ばれた。セックス・ピストルズの仕掛け人として知られるマルコム・マクラーレンがパートナーだった。しかし、マクラーレンとの破局後は、反抗的なパンクから欧風のエレガンスへと、作風を一新する。

当初は彼女のファッションを嘲笑していた保守層も、やがて彼女の才能を認め、90年代には名実ともにトップデザイナーとしての地位を確立した。

金儲けには興味がなく、事業の拡大には消極的。地球温暖化に危機感を抱くと、環境保護運動にのめり込み、本業は25歳年下の夫、アンドレアス・クロンターラーに任せてしまう。

その時々に、熱中すべき対象を自分で決め、誰からの指図も受けない。自由奔放。融通無碍。そして、77歳にして今なお現役であり続ける、無尽蔵のエネルギー。デザインから刺々(とげとげ)しさは消えたが、常識や因襲に縛られないパンク精神は健在だ。

本作は、そんなヴィヴィアン・ウエストウッドの実像に迫る、渾身のドキュメンタリーである。ローナ・タッカー監督が3年の歳月をかけて密着取材。ウエストウッドの素顔と肉声を記録した。

美術学校に進学したが、(労働者階級ゆえ)学費が捻出できず、やむなく中退し、教員の道に進んだこと。マルコム・マクラーレンとともにパンク・ムーブメントを牽引したこと。オーストリアで再び教壇に立ったとき、現在の夫であるアンドレアス・クロンターラーと知り合ったこと……。若い頃の挫折や成功、恋愛などが、ウエストウッド自身の言葉で語られる。

セックス・ピストルズ時代の話をしようとしないのは、ボーカルだったジョニー・ロットンが「いい年をして過去の栄光にまだ酔っている」かららしい。「後ろ向きの人生なんか真っ平」とでも言いたげだ。

若い頃の秘蔵映像も必見だ。モデルたちに交じってレッドカーペットを歩き、鮮やかに側転して見せたり、スケスケの衣装でお尻丸見えになったり。セクシーだが、いやらしくない。破天荒だが品がある。ウエストウッドならではの天然の魅力である。

ケイト・モス、ナオミ・キャンベルをはじめ、親交のある著名人の証言、そして、戦車に乗って環境破壊に抗議する姿など、年齢を感じさせないウエストウッドの精力的な活動も紹介される。

デビュー以来、つねにパンク精神を失うことなく、時代を駆け抜けてきたファッション界のカリスマ、ヴィヴィアン・ウエストウッド。その全貌に光を当てた貴重な作品である。

『ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス』(2018、イギリス)

監督:ローナ・タッカー
出演: ヴィヴィアン・ウエストウッド、アンドレアス・クロンターラー、ケイト・モス、ナオミ・キャンベル

2018年12月28日(金)より、角川シネマ有楽町、新宿バルト9他全国ロードショー。

公式サイト:http://westwood-movie.jp

コピーライト:@ Dogwoof

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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