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映画レビュー「岬の兄妹」

2018年7月31日
足の不自由な兄と、知的障害を持つ妹。勤め先をクビになった兄は、妹に売春させて生計を立てることを思い立つ。('19年2月20日 加筆)

障害者兄妹の過酷な生活

足の不自由な兄・良夫と、知的障害のある妹・真理子。社会の底辺で生きていた二人にピンチが訪れる。良夫が勤め先の工場でリストラされたのだ。窮地に追い込まれた良夫は、真理子に売春させようと思い立つが――。

知的障害者の真理子は、大人の常識が通用せず、目を離すと何をするか分からない。いかにも危なっかしい女性だ。まあまあの美人ということもあり、ある日、男から求められるままセックスし、金を受け取ってくる。

それが売春だという自覚のない真理子は、嬉々として良夫に金を渡す。直ちに事の次第を了解する良夫。一瞬、動揺するが、大金に目がくらみ、真理子に売春させて生計を立てることにする。

知的障害を持つゆえに、不特定多数の男性とのセックスに抵抗がない。真理子の強みである。良夫は積極的に営業をかけ、客を取りまくる。馴染みの顧客もできる。ただし、売春は違法だから、さまざまなトラブルやアクシデントにも見舞われる。

真理子がヤクザに拉致され犯される場面は、なかなかショッキングだ。良夫は妹の性行為を、無理やり間近で直視させられる。笑顔でヨガる真理子と、苦痛と屈辱に顔が歪む良夫。対照をなす兄と妹の表情が生々しい。

社会的弱者である兄妹の過酷な生活を、リアルかつ鮮烈に描いた作品。「LGBTは生産性がない。だから支援するな」という自民党議員の暴言が問題になっているが、この兄妹もまた生産性のない人々である。件の議員に本作を見せたら、どんなコメントを発するだろうか。

片山慎三監督

良夫役には、「ローリング」(2015)の松浦祐也。真理子役には、現在公開中の「菊とギロチン」(2018)で女力士に扮した和田光沙。ともに好演。特に知的障害者という難役に挑んだ和田の水際立った演技が強烈な印象を残す。

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2018(7月13日~22日)の国内コンペティション(長編部門)で優秀作品賞を受賞。

岬の兄妹

2018、日本

監督:片山慎三

出演:松浦祐也、和田光沙、北山雅康、岩谷健司、中村祐太郎、風祭ゆき

公式サイト:https://misaki-kyoudai.jp/


’19年2月20日 加筆

映画祭等での圧倒的好評を受け、17館(セカンド上映含む)での公開が決定。

2019年3月1日(金)より、東京・イオンシネマ板橋、ヒューマントラストシネマ有楽町他全国ロードショー。

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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