外国映画

映画レビュー「祝福~オラとニコデムの家~」

2018年6月21日
自閉症の弟とアルコール依存の父親。二人の世話をする少女の夢は、別居する母親が戻り、家族が再び一つになること。

14歳の少女が願うささやかな幸せ

14歳の姉オラと13歳の弟ニコデムは、父親と古い集合住宅に暮らしている。ニコデムは自閉症、父親はアルコール依存。その事実だけでも、オラにとっては十分にキツイ状況だ。なのに、母親がいないのだから、さらにハードである。

食事の用意も、掃除も、家事はすべてオラの担当。さらに、ニコデムの身の回りの世話もしなければならない。学校に通いながら、それらをこなすのは、容易なことではないだろう。

思春期の遊びたい盛り。週末ぐらいは羽を伸ばしたい。ところが、父親はバーに入りびたりで、ニコデムの世話を頼みたくても、なかなか姿を現さない。

それでも、オラが頑張れるのは、もうすぐニコデムが初聖体の儀式を受け、別居中の母親も戻ってくる。そんな期待をいだいているからだ。

ポーランドでは、国民の大半がカトリック教徒。ふつうは7~8歳で初聖体を迎えるが、それには口頭試問をパスしなければならない。

ニコデムは通常より高い年齢での挑戦。何とか成功させたいと、オラは願っている。そのため、毎日、聖書を開き、特訓に余念がない。

そして、ついにその日はやってくる。教会で儀式に臨むニコデム。見守るオラと父親。そして母親の姿も。オラが夢見た家族の風景だ。広い公営住宅に引っ越すための申請書類も出してある。

さて、オラの念願叶って、家族は新生活のスタートを切ることができるのか――。

ポーランドの映画監督アンナ・ザメツカが、偶然知り合った家族の生活に興味をいだき、一年以上の接触を経て、制作したドキュメンタリー。

描かれているシチュエーションは過酷だが、決して悲惨な話になっていないのは、主人公のオラをはじめ、家族一人ひとりに悪意や邪念が感じられないためだろう。

母親が家を出て行ったのも、父親が酒に溺れたのも、そしてニコデムが自閉症なのも、本人たちの責任ではないように思える。あえて言えば、神の思し召しか。神が見ているから、神を信じているから、オラは挫けずに生きているのかもしれない。

ザメツカ監督は自身の少女時代をオラに重ねて、本作を撮ったと言う。それだけに、オラを見つめる監督の眼差しは愛情にあふれている。

不意打ちするのではなく、そっと近づき、静かに見守る。慎み深いカメラの前に、無防備な素顔を見せるオラ。期待と不安が入り混じり、夢と現実の間で揺れ動くオラの表情に、心打たれる。

祝福~オラとニコデムの家~

2016、ポーランド

監督:アンナ・ザメツカ

公開情報: 2018年6月23日 土曜日 より、ユーロスペース他 全国ロードショー

公式サイト:http://www.moviola.jp/shukufuku/

コピーライト:© HBO Europe s.r.o., Wajda Studio Sp. z o.o, Otter Films Wszelkie prawa zastrzeżone. 2016

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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