ラストに奇跡が起こる
フランス東部、ジュラ地方。コンテチーズの産地として知られる酪農の村に、ろくに働きもせず遊び呆けてばかりの若者トトンヌが暮らしている。仲間とつるんで酒を飲み、バカ騒ぎしては、女の子をナンパする…。そんなお気楽な日々に突然、終止符が打たれる。
父親が、祭の夜に酔っ払って交通事故を起こし、急死してしまったのだ。チーズ職人として家計を支えていた父親を失ったトトンヌ。幼い妹のクレールと自分自身の生活のため、これからは否が応でも働かざるを得ない。
何とか隣村のチーズ工場に雇ってもらうが、以前ガールフレンドをめぐって乱闘を繰り広げた因縁の相手シリルと同僚になってしまう。さっそく手荒い洗礼を受けた末、トトンヌは工場をクビになる。
だが、悪いことばかりではない。シリルの妹マリー=リーズと親しい関係になったのだ。マリー=リーズの一家はチーズコンテストで優勝し、大金を手にしていた。トトンヌも、親友のジャン=イヴ、フランシスと組んで、コンテストに参加することに。
マリー=リーズが搾った上質のミルクを使えば勝機はある。トトンヌは密かに彼女のミルクを盗み出し、見よう見まねでチーズ作りにチャレンジするが――。
チーズコンテストに勝つため、恋仲になった女性を利用する。悪い奴である。だが、そのために彼女に接近したわけではない。男女関係は自然な流れの中で生じたもの。たまたま彼女がチーズ作りの鍵を握っていたに過ぎない。
まあ、正直な若者なのだ。マリー=リーズもまた率直な女性である。そもそも自分の欲望をストレートに伝え、トトンヌを誘惑したのは彼女である。
トトンヌにとって、チーズ作りも恋愛も等価であり、どちらが優先されるという性質のものではない。だから、トトンヌは彼女を騙し通すことができなかった。
裏切り、破綻、絶交。トトンヌは恋も友情も失ってしまう。だが、終盤、映画は驚くべき展開を見せ、トトンヌの上に光明を投げかけるのである。奇跡が起こるラストの数秒間をお見逃しなきよう。
監督は、本作の舞台となったジュラ地方で育った新人ルイーズ・クルヴォワジエ。キャストは、全員が現地の演技未経験者。にも関わらず、というより、であるからこそ、出演者の演技はこの上なくリアルかつ自然で、見る者を映画世界に引き込む。ジャン・ヴィゴ賞、セザール賞など、数々の映画賞を受賞。
ホーリー・カウ
2024、フランス
監督:ルイーズ・クルヴォワジエ
出演:クレマン・ファヴォー、ルナ・ガレ、マイウェン・バルテレミ、マティス・ベルナール、ディミトリ・ボードリ
公開情報: 2025年10月10日 金曜日 より、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル池袋他 全国ロードショー
公式サイト:https://alfazbetmovie.com/holycow/
コピーライト:© 2024 - EX NIHILO - FRANCE 3 CINEMA - AUVERGNE RHÔNE ALPES CINÉMA
配給:ALFAZBET