女優としての圧倒的ポテンシャル
カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールに輝いた「落下の解剖学」(2023)と、アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した「関心領域」(同)に主演し、一躍注目を浴びたドイツの女優ザンドラ・ヒュラー。その特集上映が開催され、日本未公開作を含む全7本の主演作品が一挙上映される。
初公開となるのは、「エリザベートと私」(2023)、「二対一 東ドイツ通貨統一の夏に発見した大切なこと」(2023)、「レクイエム」(2006)の3本。
「エリザベートと私」は、オーストリア皇后エリザベート(シシィ)と、彼女の侍女となったハンガリーの伯爵令嬢イルマとの尋常ならざる関係を描いた歴史ドラマ。エキセントリックで我が儘(まま)なエリザベートに扮したスザンネ・ヴォルフと、イルマ役のヒュラーとの火花散る演技合戦が見ものだ。
「二対一 東ドイツ通貨統一の夏に発見した大切なこと」は、1990年夏の通貨統一を目前に、廃棄を免れた大量の旧紙幣を発見した幼馴染の3人組が、町民たちを巻き込み、一獲千金を狙った大騒動を繰り広げる社会派コメディだ。ヒュラーは手を組む2人のボーイフレンドと三角関係にある女性を演じ、コメディエンヌとしても非凡な才能を見せている。
そして「レクイエム」。それまで舞台女優として名声を博していたヒュラーが、長編映画初主演を果たした作品だ。てんかんの持病をかかえるミヒャエラが、母親の反対を受けながらも理解ある父親の支えを得て、念願の大学進学を果たすが、たびたび発作を起こし、親友や恋人との関係も軋(きし)んでいく。
実話に基づいた映画であり、演出もドキュメンタリー・タッチ。キリスト教の信仰が適切な治療を妨げ、ミヒャエラをどんどん窮地に追い込んでいく様子が、冷徹な眼差しで描かれる。
ヒュラーの鬼気迫る演技は鮮烈であり、そのあまりのリアリティに息が詰まるほどである。ザンドラ・ヒュラーが俳優としてのポテンシャルをすべて出し切ったような作品。本特集では最も見てほしい1本だ。
エリザベートと私
2023、ドイツ/オーストリア/スイス
監督:フラウケ・フィンスターヴァルダー
出演:ザンドラ・ヒュラー、スザンネ・ヴォルフ、ゲオルク・フリードリヒ
コピーライト:©2023 Frauke Finsterwalder / Walker + Worm Film / MMC Independent / C‑Films AG / Dor Film Produktionsgesellschaft
二対一 東ドイツ通貨統一の夏に発見した大切なこと
2023、ドイツ
監督:ナーチャ・ブルンクホルスト
出演:ザンドラ・ヒュラー、マックス・リーメルト、ロナルト・ツェアフェルト、ぺーター・クルト
コピーライト:© 2024 Row Pictures GmbH, Zischlermann Filmproduktion GmbH, Lichtblick Film & TV Produktion GmbH, ZDF, ARTE
レクイエム
2006、ドイツ
監督:ハンス=クリスティアン・シュミット
出演:ザンドラ・ヒュラー、ブルクハルト・クラウスナー、イモゲン・コッゲ
コピーライト:©2006 Hans‑Christian Schmid/23/5 Filmproduktion GmbH
※10月5日 日曜日 13:00の「レクイエム」上映後、ザンドラ・ヒュラー特別インタビュー映像上映
開催情報:2025年10月3日 金曜日 より10月16日 木曜日 まで、YEBISU GARDEN CINEMAにて開催
公式サイト:https://www.goethe.de/ins/jp/ja/kul/nlk/san.html
企画・主催:ゲーテ・インスティトゥート東京