日本映画

映画レビュー「スリー☆ポイント」

2021年6月30日
京都、沖縄、東京の3点で撮られた、それぞれ味の異なる3本。即興演出や無許可撮影が、リアルな風景を鮮やかに切り取っている。

大胆な即興・無許可撮影

※“山本政志脳天映画祭”で上映中の1本。初公開時に書いたレビューを、一部加筆した上で掲載します。

既成のスタイルや発想にとらわれない、自由な作風で知られる山本政志監督の最新作「スリー☆ポイント」。京都、沖縄、東京の3地点を舞台に、それぞれ内容もスタイルも異なる3つの中編で構成された作品だ。

京都編は、京都のヒップホップ・シーンを拠点とするアウトローたちの生態をスケッチ風に綴ったもの。沖縄編は、山本監督が沖縄で実際に出会った人々との交流を記録したドキュメンタリー。東京編は、心を病んだ男女の倒錯した恋愛を描くドラマ。

京都編と沖縄編は、いずれも全編にわたり山本監督の得意とする即興演出が貫かれている。特に沖縄編は、山本監督による現地の人への“密着取材”がそのままカメラに収められており、まさに即興そのもの。

登場する人物たちが只者ではない。本土から渡ってきた流れ者、極道、海兵隊兵士……。京都編に登場するアウトローたちとは別種の迫力をたたえた面々だ。

社会のメインストリームから外れたところで生きる個性的な人間たち。彼らの素の表情、自然なしぐさ、遠慮のない発言が、ロケ地の空気感とともに、ありのまま記録されていく。

初対面の人物と瞬時に打ち解け、相手の防御姿勢を崩す才能は、山本監督の専売特許だろうか。どんな現場にも臆せず踏み込んでいける行動力と対をなして、映画づくりを推進するパワーとなっている。

3編中唯一、完成された脚本をもとに撮影された東京編でも、山本監督のゲリラ的な行動力は、さまざまなシーンでの無許可撮影を実現。東京のリアルな風景を鮮やかに切り取ることに成功している。主役の二人に扮した村上淳、蒼井そらの好演とともに、大胆かつ細心なロケ撮影にもぜひ注目してほしい。

3本の中編には表面的な類似点も、隠された共通テーマもない。3つのポイントは決して重なることなく、最後まで3ポイントのままである。

いずれも長編として構築し直すことは可能であろうし、1本にまとめてしまったのは惜しい気もする。

しかし、創造のエネルギーを持て余した山本監督にとって、長編を作れる条件が整うまで待ち続ける時間は、無駄以外の何物でもないに違いない。山本作品の愛好者としては、新作をいっぺんに3本も見られることの幸福を素直に喜ぶべきだろう。

スリー☆ポイント

2011、日本

監督:山本政志

出演:蒼井そら、村上淳、渡辺大知(黒猫チェルシー)、小田敬、青山真治

公式サイト:https://www.ks-cinema.com/movie/yamamoto_masashi/

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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