外国映画

映画レビュー「女王陛下のお気に入り」

2019年2月14日
宮廷に仕える女官長とメイド。孤独な女王の“お気に入り”となるべく、権謀術数の限りを尽くした女の戦いが繰り広げられる。

“お気に入り”の座をかけた女の戦い

乗合馬車に揺られ、ひとりの女性(エマ・ストーン)が宮廷に到着する。降車時に馬車から突き落とされた女性は、転んで地面に倒れ、糞便混じりの泥にまみれる。インパクトのある冒頭シーンである。

汚れと臭気にまみれたまま、女性は女官長であるレディ・サラ(レイチェル・ワイズ)の前に姿を現す。

女性の名はアビゲイル・ヒル。貴族出身だが、父親が破産し、没落。従妹のサラが、メイドとして宮廷に雇い入れたのだ。

落ちぶれてはいるが、美人で、気が利く。頭もいい。アビゲイルはたちまち頭角を現し、メイドから侍女、寝室付き女官へと、とんとん拍子に出世していく。

一方、アン女王(オリヴィア・コールマン)のお気に入りで、幼馴染でもあるサラは、女官長たる自分の地位を脅かしかねないアビゲイルに恐れをいだく。さまざまな局面で実力を誇示し、威圧しようとするが、容易に屈するアビゲイルではない。

どちらがアン女王の信頼と寵愛を勝ち取るか。本作は、女王をめぐる女ふたりの覇権争いを描いた映画だ。

監督は、「籠の中の乙女」(09)や「ロブスター」(15)など、シュールな状況設定で人間のグロテスクな内面をえぐり出してきた、ギリシャの鬼才、ヨルゴス・ランティモス。今回は、18世紀初頭の英国王室を舞台にした歴史劇ということで、ランティモス監督の新境地が楽しめる。

とはいえ、シュールでグロテスクな作風が封印されたわけではない。外界から閉ざされた宮廷は、現代人の目から見ると十分に歪んだ空間であり、そこに棲息する人々もまた奇矯である。

その最たるものが、女王のアンだ。肥満した体に痛風を患い、歩行も困難。はらんだ17人の子供をすべて流産、死産、早世で失い、その孤独を埋めるように、室内で動物を飼い、我が子のように可愛がっている。気まぐれ。バイセクシャルでもある。

そんな王女の扱いは、決して簡単ではない。だが、アビゲイルは巧みに取り入り、“お気に入り”の座を窺うのである。もちろんサラも黙っているわけではない。

三者三様の思惑が絡み合い、陰謀が入り乱れる。可愛い顔したアビゲイルのえげつなさが半端ではない。

宮廷の外、はるか彼方では、フランスとの戦争が続いており、宮廷内では推進派と終結派が対立している。続けるのか、終わらせるのか。すべては女王次第である。

推進派のサラと終結派のアビゲイル。その派遣争いは、戦争の行方を決するものでもあるのだ。国家を揺るがす重大な決断が、女ふたりのつばぜり合いに委ねられるという事態も、実にグロテスクである。

ゴールデングローブ賞、英国アカデミー賞など、すでに多数の受賞に輝いている本作。2月24日に発表されるアカデミー賞でも、作品賞、監督賞、主演女優賞、助演女優賞(2人)など主要部門を中心に、9部門10ノミネートを果たしている。

『女王陛下のお気に入り』(2018、アイルランド=イギリス=アメリカ)

監督:ヨルゴス・ランティモス
出演:オリヴィア・コールマン、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズ、ニコラス・ホルト、ジョー・アルウィン

2月15日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー。

コピーライト:©2018 Twentieth Century Fox

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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