日本映画

映画レビュー「郷」

2026年1月8日
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突如として、プロ野球選手への夢が絶たれた。理不尽な現実に打ちのめされた岳の脳裏に、幼馴染と過ごした少年時代の思い出が甦る。

ままならぬ現実、少年時代の思い出

高校の野球部で練習に明け暮れる主人公の渕上岳。抜群の打撃センスが監督の目に留まるが、上級生・道添の嫌がらせに苦しめられている。

それでも、親友でチームのエース・田島からホームランを放ち、実力を証明し、見事に一軍入りを果たす岳。嫉妬する道添の陰湿なイジメにも耐え抜き、レギュラーの座を勝ち取った。

プロ野球選手を夢見る岳は、夜遅くまでトレーニングに勤(いそ)しむ。そんな岳を妬み続けていた道添だが、ある日、なぜか守備の練習相手を買って出る。だが、それは道添の仕掛けた罠だった――。

岳の運命は暗転。青春そのものだった野球に見切りをつけた岳は、海外で人生をやり直そうと決意する。やさしい担任教師の霧島、好意を寄せ合っていたクラスメート、野球部の親友。すべてに別れを告げて、岳は人生を仕切り直す。

そんな岳の脳裏に少年時代の思い出が甦る。幼馴染の隆と森の中や野原を駆け回った日々。美しい自然の中で、自由に伸び伸びと生きていたあの頃。

しかし、隆には誰にも言えない家庭の悩みがあった。つらいのは岳だけではない。隆も塗炭の苦しみを味わった。だが、隆は逆境を克服し、漁師となり、恋をし、結婚した。自分の人生を見つけていた。岳の蹉跌など、長い人生のほんの一コマでしかないのだ。

掴みかけた夢が一瞬で消える、悲痛な青春ドラマ。そう見えたものが、時を遡り、主人公の人生を俯瞰し、テレンス・マリックばりに時空を広げ、叙事詩的なスケールの大きな物語へと昇華されていく。

特筆すべきは、美しい自然描写だ。時の流れに応じて姿を変える空、雲。田畑に棲息ずる昆虫。そして、交尾後にオスを食ってしまうメスのカマキリ。

大自然の営みを、時にリアルに、時に神秘的にとらえた映像が、大自然の中の点でしかない人間のちっぽけさと同時に、人生の普遍的価値を謳い上げていて見事である。

映画レビュー「郷」

2024、日本

監督:伊地知拓郎

出演:小川夏果、古矢航之介、阿部隼也、千歳ふみ

公開情報: 2026年1月9日 金曜日 より、新宿ピカデリー他 全国ロードショー

公式サイト:https://www.goumovie.com/

コピーライト:© 郷2025

配給:マイウェイムービーズ/ポルトレ

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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