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映画レビュー「殺しの分け前/ポイント・ブランク」

2025年6月12日
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親友に裏切られ、殺されかけた男が、復讐に乗り出す。前衛的なスタイルでハリウッドの定石を覆した、フィルム・ノワールの傑作。

犯罪アクションの新境地

「頼む、助けてくれ」。莫大な借金を抱え、命を狙われている親友のリースに懇願され、組織の現金を強奪する企みに協力したウォーカー。計画は上手くいったものの、土壇場でリースに銃撃され、金を独り占めにされたあげく、妻も奪われ逃げられてしまった。

親友と思っていた男と、愛し合っていたはずの妻リン。その二人から同時に裏切られたのだ。重傷を負ったウォーカーは独房に置き去りにされる。

生き延びたウォーカーは、数年後、遊覧船の船上で、ヨストと名乗る男に話しかけられる。リースはいま高級マンションでリンとともに豪勢な暮らしを送っているらしい。

組織でトップの座を狙うヨストは、強奪金の分け前を取り返す手助けをするから、自分と手を組もうとウォーカーに持ちかける。こうしてウォーカーの復讐劇が始まった――。

ヨストに教えられた部屋にリースはいなかった。リンと別居しているのだ。不貞の経緯と悔悟の念を口にするリン。リンがリースに抱かれていたはずのベッドにピストルを連射するウォーカー。愛と憎しみが錯綜する。リンは自ら命を絶ってしまう。

ウォーカーは、リンの生活費を運んできたチンピラの口を割らせて人脈をたどり、リースに復讐するとともに、分け前の金を取り返すべく、幹部たちに戦いを挑んでいく。ハリウッドきってのタフガイとして鳴らしたリー・マーヴィン。その破壊的なまでの格闘アクションが凄まじい。

全裸でビルの屋上から落下する男。ウォーカーと勘違いされスナイパーに撃たれる男。ウォーカーに盾突き、非業の死を遂げる男たちの無様な最期を、オーソン・ウェルズ監督「黒い罠」の冒頭12分を撮ったことで知られる名カメラマン、フィリップ・H・ラスロップが、ハードボイルドに切り取って見せる。

ほかにも、本作には全編に視覚的なアイデアやテクニックが駆使されている。美容室のリンを鏡が無限反射させる唐突なショット。アンジー・ディキンソン扮するリンの妹クリスとウォーカーがベッドをともにするシーンでは、クリスがリンに、そしてウォーカーがリースに、さらにはリンがクリスに入れ替わり、四角関係が幻惑的に表現される。ウォーカーのトラウマとして頻繁に用いられるフラッシュバックも印象的だ。

伝統的なフィルム・ノワールの枠を破った前衛的なスタイルには、ヌーヴェルヴァーグの香りが漂うとともに、本作のロケ地であるウエストコーストに花開いていたサイケデリック文化の反映も見られる。

時間を行きつ戻りつする非直線的な展開や、曖昧で謎めいたラストシーンなど、ハリウッド映画の定石を覆した本作。製作会社の重役からはクレームがつき、完成作についても否定的な評価が少なくなかったという。

だが、現在は犯罪アクションの新境地を開いた傑作として、揺るぎない評価を獲得している。巨匠ジョン・ブアマンの出世作にして、名優リー・マーヴィンの代表作。待望のリバイバル上映である。

映画レビュー「殺しの分け前/ポイント・ブランク」

殺しの分け前/ポイント・ブランク

1967、アメリカ

監督:ジョン・ブアマン

出演:リー・マーヴィン、アンジー・ディキンソン、ジョン・ヴァーノン、シャロン・アッカー、キーナン・ウィン

公開情報: 2025年6月13日 金曜日 より、シネマート新宿他 全国ロードショー

公式サイト:https://pointblank2025.com/

コピーライト:© 2025WBEI

配給:コピアポア・フィルム

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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