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「サムライと愚か者-オリンパス事件の全貌-」 山本兵衛監督 単独インタビュー

2018年5月17日
「サムライと愚か者-オリンパス事件の全貌-」 山本兵衛監督 単独インタビュー
20年以上に及んだ不正経理。なぜ隠蔽されたか? 国内メディアはなぜ沈黙したか? オリンパス事件の真相に鋭く切り込む。

サムライも愚か者も組織のために行動した

2011年、雑誌「FACTA」は、オリンパスが20年以上にわたり巨額の損失を隠蔽してきた事実をスクープ。同記事を読んだマイケル・ウッドフォード社長は、真相究明に動くが、取締役会で解任されてしまう――。日本有数の名門企業に何が起きたのか? 山本兵衛監督は「サムライも愚か者も、組織のために行動した点では同じだ」と語った。

権力は人を腐敗させる

――オリンパス事件を映画化した理由を。

最初に、奥山和由プロデューサーから、いくつか企画を持ちかけられた。その中で最も興味をかきたてられたのが、本作の企画だった。

マイケル・ウッドフォードという外国人社長が、オリンパスという日本企業に入ってきて、その不正を告発することによって、組織を引っかき回す。

そのとき、日本人が彼に対し、どんな感情や態度で接するか。また、逆に彼が日本人の行動を見たとき、どう感じるか。その二つの視点からオリンパス事件を語ったら面白いのではないかと思った。

「サムライと愚か者-オリンパス事件の全貌-」 山本兵衛監督 単独インタビュー

――オリンパス事件の本質は何でしょう。

幹部たちの記者会見のやりとりが、すべてを物語っている。あの馬鹿げた茶番劇を見ると、権力は人を腐敗させるということがよく分かる。人間は権力を握ると、道徳観も倫理観も麻痺してしまう。

ベストセラーとなった「21世紀の資本」の著者トマ・ピケティが言っているように、いまは人口の1%ほどの既得権者たちが世界を動かしている。

オリンパス事件では、その既得権者たちが自分たちの既得権を守るため、不正に走り、結果的にオリンパスという愚か者の船を沈めた。一番の被害者は社員の方々ではないか。

「サムライと愚か者-オリンパス事件の全貌-」 山本兵衛監督 単独インタビュー

“忖度”する国内メディア

――オリンパス事件の報道に積極的だったのは海外メディアで、国内の大手メディアは沈黙していました。

英フィナンシャルタイムズ紙のジョナサン・ソーブル氏は、事件が明るみに出たとき、日本の新聞記者にこう聞いたそうだ。

「このネタをウッドフォード氏から提供されたら、あなたはスクープできたか?」。その記者は「フィフティ・フィフティだね」と答えたらしい。

ストーリーテリングの都合で、本作ではあまり突っ込んだ描き方をしていないが、日本では、情報源となる企業、官庁、政府にとって都合の悪いニュースをすっぱ抜くことは難しい。広告を出稿している企業には、“忖度”も働く。

その結果、海外メディアと国内メディアで、あれだけの温度差が出てしまった。
オリンパスも、「FACTA」の報道ぐらいなら何とかなるだろうと高をくくっていたかもしれない。

「サムライと愚か者-オリンパス事件の全貌-」 山本兵衛監督 単独インタビュー

「サムライ」が正義で「愚か者」が悪?

――ウッドフォード氏は、自分とともに戦いサポートしてくれた同僚たちを「サムライ」、損失の隠蔽に加担し、自分を解任した役員たちを「愚か者」と呼んでいる。ところが、ウッドフォード氏の支持者である元専務取締役の宮田耕治氏は、「愚か者」の一人である菊川前社長を「決して悪い人ではない」と擁護しています。

「サムライと愚か者」というと、あたかも「正義と悪」みたいな図式になるが、実はそれほど単純なものではないと思っている。

「サムライ」も「愚か者」も、組織のために行動している点では同じだ。「愚か者」は組織のためと思って不正を働き、「サムライ」も組織のために不正を追及した。

「愚か者」はその忠誠心の強さにおいて、まさに「サムライ」だったとも言える。一方、「サムライ」たちは、会社を変革しようとしたが、結局、実現できなかった。その意味では「愚か者」ということになる。

「サムライと愚か者-オリンパス事件の全貌-」 山本兵衛監督 単独インタビュー

――登場人物全員が会社のためを思って行動したということですか。

私利私欲のために行動した人はいなかった。海外でこれほどの規模の不正事件が起きたら、たいてい誰かが大金を横領して逃亡する。

ところが、この事件で私腹を肥やした人は誰もいない。この点は実に日本的で、外国人は奇妙に思ったようだ。

現状にもっと危機感を

――悪い人は誰もいないとすれば、組織に問題があるということになりますね。

組織の中で権力を持っている人たち。この人たちが腐っていく。道徳観、倫理観が麻痺し、権力を濫用するようになる。

これは企業だけの問題ではない。森友学園、加計学園、防衛省などの問題も、すべて組織と権力が結びつき、腐敗を起こした結果だ。

戦後何十年かは機能した「組織一丸となって頑張る」やり方が通用しなくなった。反発する声が方々で上がっている。

そんな現状に対して、もっと危機感を持つべきだ。そして、何らかの変革を求めなければならないと思う。

サムライと愚か者-オリンパス事件の全貌

2015、ドイツ/フランス/イギリス/日本/デンマーク/スウェーデン

監督:山本兵衛

コピーライト:© チームオクヤマ/太秦


舞台挨拶

以下の日時、シアター・イメージフォーラムで舞台挨拶あり。

  1. 5/19(土)11:15回上映後、和空ミラーさん、山口義正さん、山本兵衛監督
  2. 5/19(土)21:10回上映後、山本兵衛監督
  3. 5/20(日)11:15回上映後、山本兵衛監督
  4. 5/26(土)9:45回上映後、山本兵衛監督
  5. 5/26(土)21:10回上映後、山本兵衛監督
  6. 5/27(日)9:45回上映後、山本兵衛監督

初日プレゼント

キャッチコピー「隠蔽、欺瞞、嘘、忖度… そして真実は闇に葬られた――」にちなんで、初日にご来場の方に先着で“黒忖度まんじゅう”をプレゼント!(限定100個。なくなり次第終了。)

【黒忖度まんじゅう提供元】株式会社ヘソプロダクション

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

この投稿にはコメントが1件あります

  •  マートン

    とても面白く読みました!