本物のアメリカン・ミュージックが聴きたい。そんな思いから、SPレコードのコレクションに生涯を捧げた男、ジョー・バザード。

SPレコードに取り憑かれた男

アナログ・レコードが見直されつつある。CDの登場で、一時は絶滅寸前まで追い詰められていたが、ここにきて、アナログ・レコードの魅力が再評価されてきた。

アナログならではの生々しい音色。針を落として聴くという、面倒だが厳かな手続き。ひっそり鳴りを潜めていたアナログ・レコード・マニアが、いま続々と声を上げ始めている。

本作に登場するジョー・バザードは、そんなマニアの中でも、別格の存在だ。何しろ、この男にとってアナログ・レコードとは、SPレコードのことだからだ。

1950年代でその役割を終え、EP(シングル)やLP(アルバム)にバトンを渡したSPレコード。とっくに絶滅したはずの、まさに全盛期の遺物。しかし、どっこい、SPレコードは生きていた。

アメリカのメリーランド州に暮らす、レコード・コレクター、ジョー・バザード。ブルース、カントリー、ゴスペル……。20年代から30年代の伝統的なアメリカン・ミュージックをこよなく愛するこの男にとって、本物の音楽が聴ける媒体は、SPレコード以外にない。

「SPがあるよ」と情報が入れば、すぐさま車を走らせる。たとえ掘り出し物に巡り合えなくとも、SPに触れられるだけで満足なのだ。

ダビングも何もなく、その場で演奏したものが、そのままレコードになる。一発勝負の生の音こそが、真の音楽なのだ。

小刻みに体を動かしながら古いブルースに聴き入る、バザードの歓喜の表情。彼の音楽愛の強さを物語る、印象的な映像だ。

ロックやヒップホップは大嫌い。「ロックのお陰で地場の音楽が消滅した」というのがバザードの見解だ。いまやアメリカ各地どこへ行っても、ロックとヒップホップ。そんな状況にバザードは我慢ならない。

少年時代に勝手に放送局を開き、DJとしてブルースの魅力を伝えた。ブルースの伝道者とも言えるだろう。

1936年生まれだから80歳を超えている。残りの人生は決して長くない。彼の後、アナログ・レコードと、本物のアメリカン・ミュージックを、伝え継ぐ者は出てくるのだろうか。

『さすらいのレコード・コレクター~10セントの宝物』(2003、オーストラリア)

監督:エドワード・ギラン

2018年4月21日(土)より、新宿K’s cinema他全国ロードショー。

公式サイト:https://sasurai-record.info/

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