外国映画

映画レビュー「胸騒ぎ」

2024年5月9日
デンマーク人夫婦のもとに、バカンスをともに過ごしたオランダ人夫婦から招待状が届く。それは、想像を絶する恐怖の始まりだった。

不快感が恐怖感に変わる

デンマーク人夫婦のビャアンとルイーセ。オランダ人夫婦のパトリックとカリン。ともに子連れの夫婦二組は、夏休みをイタリアのリゾート地で過ごし、意気投合する。

後日、パトリック夫婦からビャアン夫婦のもとへ、自宅への招待状が届く。週末を他人の家で過ごすことに躊躇いはあったが、せっかくの誘いを断るのはマナー違反と、家族そろってオランダへと向かう。

到着したのは、森の中に佇む一軒家。再会を喜び合い、食卓を囲む両家族だったが、ベジタリアンのルイーセに肉食を無理強いするなど、無神経なパトリック夫婦の言動に、ビャアン夫婦はしだいに違和感を募らせていく――。

ビャアンとルイーセは礼儀正しい常識人だ。一方のパトリックとカリンは自己主張が強く、他人の気持ちなどお構いなし。自分たちの考え方や感じ方は絶対正しいと思っている。

もともと相性が合う相手ではない。なのに、ビャアンは誘いを断れず、パトリック夫婦と一緒に過ごす羽目になった。

無礼で強引だが、悪気はないのかもしれない。そんなパトリックにビャアンは異を唱えにくい。不快感を押し隠しながら、同調して見せるしかないのだ。

だが、パトリック夫婦の行動はどんどんエスカレート。ビャアンとルイーセの不快感は恐怖感へと変わっていく。そして、驚愕の事実が浮かび上がる。その後にビャアン一家を待ち受ける結末があまりに無残で言葉を失う。

「胸騒ぎ」とは上手い邦題である。危険なサインに心はざわついているのに、無理やり不安を抑え込み、逆に窮地に陥ってしまう。気が付いたときには手遅れとなっている。ありがちな人間心理が陥る罠を、真っ黒なユーモア交じりで描き、見る者を悪夢の世界に誘い込む。

平穏な日常の中に邪悪な存在が侵入し、抵抗や逃亡の機会も奪われるという展開は、ミヒャエル・ハネケ監督の「ファニーゲーム」(1997)を思わせる。

しかし、デンマーク生まれのクリスチャン・タフドルップ監督の手になる本作は、開巻早々に画面を支配する不穏な空気や、全編に流れて不安と恐怖をかき立てる不気味なサウンドなど、典型的なホラー映画のテイストに彩られており、ハネケ作品の無感情な酷薄さとは似て非なるもの。ただし、怖さのボルテージは完全に拮抗する。映画史に残るホラー映画の傑作。

映画レビュー「胸騒ぎ」

胸騒ぎ

2022年、デンマーク/オランダ

監督:クリスチャン・タフドルップ 

出演:モルテン・ブリアン、スィセル・スィーム・コク、フェジャ・ファン・フェット、カリーナ・スムルダース

公開情報: 2024年5月10日 金曜日 より、新宿シネマカリテ他 全国ロードショー

公式サイト:https://sundae-films.com/muna-sawagi/#modal

コピーライト:© 2021 Profile Pictures & OAK Motion Pictures

配給:シンカ

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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