日本映画

映画レビュー「辰巳」

2024年4月19日
一匹狼のヤクザ、辰巳。姉の敵を討つと誓う少女、葵。辰巳は葵の復讐の旅に同行する。しだいに二人の心が接近していく。

ヤクザと不良少女が復讐の旅へ

ヤクザの辰巳はクールな男だ。組織の歯車として働きながらも、必要以上に人とつるむことなく、孤独な影を漂わせていた。

組織は荒れている。薬物の売上をめぐるトラブルは後を絶たず、組員同士の殺人行為も日常茶飯事だ。

しかし、辰巳は我関せずの態度を崩さず、死体処理のエキスパートとして、淡々と仕事をこなしていた。

だが、あるとき、かつて恋人だった京子が殺され、辰巳の人生は変化を余儀なくされる。京子の妹・葵(あおい)が、姉の敵を討つと誓い、辰巳が助っ人を務めざるを得なくなったのだ。

相手は、狂暴で残忍なことで仲間からも恐れられている竜二。兄の武と組んで、裏切者に容赦ない制裁を加えていた。

衝動的に不意を突いて武を倒した葵だったが、京子を殺した竜二こそが真のターゲット。辰巳に射撃の手ほどきを受け、復讐のチャンスを窺うが――。

もともとは手の付けられない不良少女の葵。組員の後藤が経営する自動車整備工場で働いているが、誰彼かまわず毒づき、その分、痛い目にも遭う。それでも、決して弱音は吐かない。筋姉入りのヤンキー娘なのだ。

そんな不良が、姉の仇をとると決めた瞬間から、顔つきが変わっていく。薄汚く幼稚な貌が、キリッと引き締まり、オンナの顔になっていく。撮影時は十代だったはずの森田想の演技が秀逸だ。

そして、辰巳役の遠藤雄弥。葵と復讐旅を続ける過程で、辰巳もまた微妙に表情を変えていく。ニヒルで近寄り難い雰囲気が薄れ、人間の男の顔になっていく。

もっと時間を与えれば二人は男女関係になっていてもおかしくない。そう思ったが、寸止めしたことで、余韻が生まれ、ラストにも味が出た。あえて言えば任侠の魂のようなものを感じた。

主役二人以外にも、狂犬・竜二に扮した倉本朋幸、荒っぽさの中にも情味を湛えた後藤役の後藤剛範、辰巳の兄貴を演じた佐藤五郎、そして辰巳の実弟役・藤原季節など、キャスト全員が役にハマっている。

殺人や死体処理の生々しい描写に目を瞠(みは)る。銃弾一発で殺すのではなく、じわじわと時間をかけて死に至らしめる。死体は、指を切り落とし、歯を抜き、耳を切り取る。埋めたら、その上に車を止める。具体的でリアルだ。

接近し、接触する顔と顔。吐きつけられる唾、滴り落ちる涎(よだれ)。絡み合う視線。そのすべてを、俊敏なカメラが絶妙のアングルとタイミングで映像化している。

デビュー作「ケンとカズ」から8年。待ちに待った小路紘史監督の新作は、ファンの高い期待値を上回る傑作となった。

映画レビュー「辰巳」

辰巳

2023、日本

監督:小路紘史

出演:遠藤雄弥、森田想、後藤剛範、佐藤五郎、倉本朋幸、藤原季節

公開情報: 2024年4月20日 土曜日 より、渋谷ユーロスペース他 全国ロードショー

公式サイト:https://tatsumi-movie-2024.com/

コピーライト:© 小路紘史

配給:インターフィルム

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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