日本映画

映画レビュー「雨降って、ジ・エンド。」

2024年2月9日
フォトグラファー志望の日和が撮ったピエロ男の写真に、SNSで“いいね”が殺到。さらなるバズりを求めて日和は男に接近する。

好きになった男には秘密があった

フォトグラファー志望の日和(ひより)。パートで働きつつ、仕事のない日はひたすら写真を撮り、SNSに投稿していた。だが、色味の薄いぼんやりした写真が注目を浴びることはなかった。

そんなある日、雷雨を逃れるために飛び込んだ無人の喫茶店で、同じように雨宿りしていた男に遭遇する。ピエロのメイクをしたその男を見て、日和は思わずシャッターを切った。

日和は男の写真をSNSにアップ。するとたちまち“いいね”が殺到する。いわゆるバズりである。承認欲求が満たされ有頂天になった日和は、さらなるバズりを求めて、ピエロの男に接近するのだが―。

SNS上で日和は、その男=雨森をバケモノ扱いしている。バケモノをネタに一儲けしようと企んでいる。だが、そんな本心はおくびにも出さず、雨森に近付くのである。

一方、「世界は笑顔であふれているべき」という信念からピエロ姿で街を歩く雨森は、善意の塊のような男だ。その上、ケータイもパソコンも持たずSNSとは無縁。雨森が日和の企みに気付くわけもない。

利用する日和と、利用される雨森。しかし、そんな二人の関係はやがて変容し、崩壊し始めるのである。

雨森を利用しようとした日和は、雨森との接触を重ねるうちに、しだいに彼の人柄に惹かれ、恋愛感情を抱くまでになる。

さらに、映画の序盤から示唆されていることだが、雨森の秘密が明らかとなり、日和は衝撃に打ちのめされる。

若く美しいヒロインとグロテスクな中年男とのラブストーリー。そう期待させておいて、突如冷水を浴びせられる。その冷水とは性嗜好障害というタブーである。

それは、LとかGとかBといった、世間に受容された性嗜好ではない。社会的に認められることのない類の、あえて言えば呪われた嗜好だ。

そんな嗜好の持ち主であるがゆえに、素顔をピエロのメイクで隠しているのだろう。しかし、善人であることに嘘はない。ヒロインはそんな厄介な男に恋をしてしまう。

救いはないように思える展開だが、悲劇として描いていないのが、本作の凄みだ。監督・脚本は髙橋泉、雨森役は廣末哲万。特異な作風で知られる映像ユニット「群青いろ」のコンビが久々に放った新作は、世間の常識には収まらない愛の形を模索している。

廣末のアクの強い演技、独特のセリフ回しが、本作のトーンを決定づけている。これに対し、日和役の古川琴音が、少しも貫禄負けすることなく、精彩を放っているのが素晴らしい。2019年撮影だから「街の上で」(2021)や「偶然と想像」(2021)で注目を浴びる前だが、すでにスターの風格が漂う。

ほかに、廣末同様「群青いろ」の常連である大下美歩、新恵みどりが出演。本筋と並行して進むストーリー部分で、職場の先輩とパワハラ上司を、こちらも個性的に演じ、強い印象を残す。

デリケートなテーマをユーモアで包み、重くなりがちな物語を軽快に仕上げた、ユニークな作品である。

映画レビュー「雨降って、ジ・エンド。」

雨降って、ジ・エンド。

2020、日本

監督:髙橋泉

出演:古川琴音、廣末哲万、大下美歩、新恵みどり、若林拓也

公開情報: 2024年2月10日 土曜日 より、ポレポレ東中野他 全国ロードショー

公式サイト:http://amefuttetheend.com/

配給:カズモ

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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