外国映画

映画レビュー「ナポレオン」

2023年11月30日
巨匠リドリー・スコットと名優ホアキン・フェニックスが23年ぶりに組んだスペクタクル巨編。従来のナポレオン像がひっくり返る。

戦い続け、愛し続けた、狂気の男

ホアキン・フェニックス扮する天才戦術家ナポレオン。英国に侵略され窮地に陥ったフランスを奇襲作戦で救い、その後も次々と戦功を立て、尉官から佐官をスキップし、一気に将官へ。

猛スピードで出世街道を駆け上がり、クーデターで国家を手中に収め、世界に勇名を轟かせた英雄ナポレオン。その壮烈な一代記を、リドリー・スコット監督がスペクタクル作品として仕上げた。

見所となるのは、何と言ってもその苛烈な戦闘ぶりである。水の凍り付いた冬の戦闘では、砲撃で氷を割り、重装備の敵兵たちを水中に落としていく。

敵兵が血煙を上げながら水底に沈んでいく光景には既視感がある。そう、スピルバーグの戦争映画「プライベート・ライアン」の冒頭場面だ。悪魔とまで呼ばれ恐れられた冷酷無残さが画面いっぱいに漲(みなぎ)る。

そんな情け容赦のないナポレオンが、生涯で唯一愛した女はジョゼフィーヌ。処刑された夫の軍刀を返してほしいと口実を作り、たちまちナポレオンと昵懇(じっこん)に。

そして二人は結婚。だが、戦闘で家を空ける夫の居ぬ間に、淫乱の妻は他の男と情事にふける。その噂はたちまち広がり、側近からナポレオンの耳にも入る。

対戦中にも拘わらずナポレオンは帰国し、妻を責めるが、それでも後継ぎさえ生んでくれればと、情事に精を出す。とは言え、ムードもへったくれもない、ジコチュー丸出しの営みに、ジョゼフィーヌは無反応。これでは浮気されても仕方ないか。

待てど暮らせど子はできぬ。仕方なく若い女に身ごもらせ、ジョゼフィーヌとは離婚。オーストリア皇女と政略結婚するも、ジョゼフィーヌへの愛は消えず、逢引きが続く。

そのジョゼフィーヌ、ナポレオンが海外にいる間に、胸が腫れ、喉が痛いと訴え、それはジフテリアの症状。ジョゼフィーヌを失い、ワーテルローで大敗し、往年の勢いを失ったナポレオンは、小さな島に流され、波乱の生涯を終える。

闘いにおいても、恋愛においても、常軌を逸した人物だった。そんなナポレオンの、良くも悪くも異常な人生を、生々しく描いた作品だ。スコット監督と「グラディエーター」(2000)以来のタッグを組んだホアキン・フェニックスが、偶像破壊的な演技で、ナポレオンのイメージを一新している。

ナポレオン

2023、アメリカ

監督:リドリー・スコット

出演:ホアキン・フェニックス、ヴァネッサ・カービー、タハール・ラヒム、ルパート・エヴェレット

公開情報: 2023年12月1日 金曜日 より、 全国ロードショー

公式サイト:https://www.napoleon-movie.jp/

配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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