外国映画

映画レビュー「少年、機関車に乗る」2Kレストア版

2023年6月1日
17歳と7歳の兄弟が父親に会うため機関車の旅に出る。美しい風景と、忘れ難いエピソードの数々に、目も心も奪われる。

フドイナザーロフの才気あふれるデビュー作

中央アジアを代表する映画作家バフティヤル・フドイナザーロフが、その才能を世界に見せつけた記念すべきデビュー作。

17歳の少年ファルーと7歳の弟アザマットが機関車で旅に出る。離れて暮らす父親に会うためだ。しかし、それはあくまで表向きの理由。ファルーの本当の狙いは弟を父親に預けてしまうことだった。

不良仲間とつるんで違法な仕事に手を染めていたファルーだが、不安定で危ない生活にそろそろ見切りをつけたい。まともな仕事に就きたい。そこでネックとなるのがアザマットの存在だった。

可愛い弟だが、土を食べる奇癖を持ち、何かと手がかかる。確かに仕事をしながら相手にするのは難儀なことに違いない。

もちろん、そんな本心はおくびにも出さず、ファルーはアザマットを連れて機関車に乗り込むのだった――。

大平原を走行する機関車。車輪がレール上を回転する。連結器がガタガタと揺れる。カーブを曲がる。前方に馬の群が現れる。峡谷を抜け、鉄橋を渡る。鉄道オタクなら身を乗り出すであろうショットが続いていく。

窓外に映し出されるのは自然の景色だけではない。庭のテーブルで食事をする家族や織物をする女性など、庶民の生活風景も映し撮られている。

生活と自然と交通が一体化して形成されるノスタルジックな景観は、白黒フィルムで撮影されることで、フォトジェニックな質感を高め、視覚芸術としての映画の力を再認識させてくれる。

そして、もちろんドラマとしての魅力。運転士や途中で乗り込んでくる人々と、少年たちが織り成す小さなエピソードの数々は、一期一会の煌めきを放ち、見る者の心に強く刻まれることだろう。

到着した町で父親と再会した少年たちがしばらく滞在する日々をスケッチ風に描いた後半は、ジャック・タチのコメディを彷彿させる。

ここで発揮される喜劇的センスは、本作の後に撮られるロマンティックなラブストーリー「コシュ・バ・コシュ 恋はロープウェイに乗って」(93)や、シュールな感覚にあふれたファンタジー「ルナ・パパ」(99)に受け継がれ、フドイナザーロフのスタイルを確立していく。華々しいデビュー作であると同時に、フドイナザーロフの可能性が詰まった貴重な作品だ。

本作は「再発見!フドイナザーロフ ゆかいで切ない夢の旅」と銘打つ特集で上映される作品の1本。他に上記の2本(4Kレストア版)と遺作となった「海を待ちながら」(2012)が上映される。

映画レビュー「少年、機関車に乗る」2Kレストア版

少年、機関車に乗る

1991、タジキスタン/ソ連

監督:バフティヤル・フドイナザーロフ

出演:チムール・トゥルスーノフ、フィルズ・サブザリエフ

公開情報: 2023年6月3日 土曜日 より、ユーロスペース他 全国ロードショー

公式サイト:https://khudojnazarov.com/

配給:ユーロスペース、トレノバ

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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