外国映画

映画レビュー「縁路はるばる」(新世代香港映画特集2023)

2023年5月17日
引っ込み思案なオタク青年が、5人の美女と遠距離恋愛。試行錯誤の末につかんだ本物の恋は? 運命の相手はいったい誰なのか?

オタク青年が美女5人と遠距離ラブ

IT企業でアプリ開発の仕事をしているハウは、引っ込み思案でオタクっぽい男。28歳になるが、女性と付き合ったことは一度しかない。

そんなハウの前に、どういう風の吹き回しか、次々と魅力的な女性が現れる。チャンスをものにすべく、ハウなりに奮闘するのだが、シャイなうえに経験値が低いハウは、女性たちをイラつかせ、失望させるばかり。はたして、ハウに恋の女神は微笑むのだろうか――。

草食男子に襲いかかる肉食女子軍団。相手はいずれ劣らぬ美女揃いである。

以前から気になり、しょっちゅう目が合っていた同僚のエイリー。ブライズメイド(花嫁付添人)で、結婚=出産願望の強いファファ。中学時代に男子の憧れの的だったリサ。保険セールスレディのミーナ。大学の同窓でアイドル的存在だったメラニー。

5人とも美人で、それぞれに個性やこだわりも強い。恋の経験も豊富だ。恋愛ビギナーのハウがそんな彼女たちとの交際を通じて、少しずつではあるが徐々に恋のテクニックを身に付けていく。人間としても成長していく。

冴えない男が何人もの魅力的な女性と接触するという話は、今泉力哉監督の「街の上で」(2019)を想起させるが、本作はよりシンプルで爽快な青春コメディとなっている。

ところで、登場する美女たちには一つ共通点がある。それは彼女たちが皆、香港の中心部から離れた周縁地区に住んでいるということだ。ハウはどの女性とデートするにしても、数時間のドライブや船舶移動を強いられるのだ。

その移動ルートを、ハウ自身が開発したナビアプリで画面表示していくという趣向がお洒落だ。ナビに導かれて到着した場所には素晴らしい光景が待っている。一般の観光客に共有されている香港のイメージとは異なる、“奥香港”とも言うべき穴場観光スポットが映し出されるのだ。

沙頭角、下白泥、茶菓嶺など、高層ビルの立ち並ぶ密集空間とはかけ離れた、自然豊かな風景は、香港の知られざる魅力を発見させてくれるだろう。

だが同時に、この映画は香港が中国に返還されて以降の悩ましい状況も、さりげなく描き込んでいる。登場人物たちの口からたびたび飛び出す再開発とか海外移住という言葉がリアルだ。こういったことも含めて、現在の香港事情を知る上でも恰好の1本である。

縁路はるばる

2021、香港

監督:アモス・ウィー

出演:カーキ・サム、シシリア・ソー、クリスタル・チョン、レイチェル・リョン、ハンナ・チャン、ジェニファー・ユー

公開情報: 2023年5月19日 金曜日 より、新宿武蔵野館他 全国ロードショー

公式サイト:https://enro.myprince.lespros.co.jp/enroharubaru.htm

コピーライト:© 2021 DOT 2 DOT CREATION LIMITED. All Rights Reserved.

配給:活弁シネマ倶楽部

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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