難民少女の過酷な運命
アフリカのペナンからベルギーへ逃れてきたトリ。同じくカメルーンからやってきたロキタ。道中で親しくなった二人は、弟と姉のような絆で結ばれていた。二人はイタリア料理店でカラオケを歌い日銭を稼いでいる。
ロキタは家政婦として働きたいと思っているのだが、ビザがないため正規の仕事に就けない。家族に仕送りするために、密かにドラッグの運び屋をするしかなかった。
ドラッグの売買を仕切るシェフのベティムからは、ときに性的な要求をされることもある。だが、立場の弱いロキタは拒否できない。過酷な日々が続く。
さらに、密航を斡旋した業者から金を奪われ、窮地に立たされるロキタ。ベティムはそんなロキタに「3カ月間一人で大麻栽培をこなせば、偽造ビザを発行する」と持ちかける。ロキタに断わる理由はなかった――。
倉庫のような密閉空間に監禁されたロキタが、ベティムの仲間のルーカスから、大麻栽培の手ほどきを受ける場面がリアルだ。一つひとつの作業が実に精密に描かれていて、まるでドキュメンタリー映画を見ているような気分にさせられる。
ダルデンヌ兄弟の作品はいつもそうだが、こうしたディテールの描写に注力することで、観客を否応なく“現実”に対峙させる。紛れもないフィクションでありながらスクリーンには迫真の空間が生み出され、いきおい登場人物にも血が通うのだ。
犯罪行為や性的行為を強いられながら、忍従の日々を送る難民女性の物語。観客はこれを他人事として眺めることはできないだろう。ロキタに会いたい一心で大麻栽培所に侵入したトリが、ロキタと再会を喜び合う場面では、彼らの歓喜の感情を共有し、二人がピンチに陥る場面では、思わず拳を握りしめるに違いない。
終盤のクライマックスにはサスペンスが漲(みなぎ)る。足を負傷したロキタが、スロープにシートを敷いて滑り降りる場面は、後方からの俯瞰撮影が素晴らしい。手持ちカメラの視点と運動がロキタと観客を一体化させる。ダルデンヌ兄弟のテクニックが光る。
簡潔さを極めたハードボイルドなスタイルには一層磨きがかかり、ロベール・ブレッソンの境地に近づいた本作。救いのないエンディングに胸が突かれる。
トリとロキタ
2022、ベルギー/フランス
監督:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ
出演:パブロ・シルズ、ジョエリー・ムブンドゥ、アウバン・ウカイ、ティヒメン・フーファールツ、シャルロット・デ・ブライネ、ナデージュ・エドラオゴ、マルク・ジンガ
公開情報: 2023年3月31日 金曜日 より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、渋谷シネクイント他 全国ロードショー
公式サイト:https://bitters.co.jp/tori_lokita/
コピーライト:© LES FILMS DU FLEUVE - ARCHIPEL 35 - SAVAGE FILM - FRANCE 2 CINÉMA - VOO et Be tv - PROXIMUS - RTBF(Télévision belge)
配給:ビターズ・エンド