外国映画

映画レビュー「逆転のトライアングル」

2023年2月22日
豪華船で旅に出たヤヤとカール。途中で嵐と海賊に襲われ、無人島に漂着。新たなキャプテンの下、サバイバル生活が始まった。

立場逆転の無人島生活

ともにモデルのカップル、ヤヤとカール。ヤヤは超売れっ子で、有名なインフルエンサーでもある。一方、カールはやや落ち目で、稼ぎはイマイチ。いわゆる格差カップルだ。

美男美女で、見た目はお似合いのカップル。それだけに収入の差はカールを少しばかりナーバスにさせている。食事代など支払いはいつも男のカール。それはおかしいじゃないかと主張するカールと、逆ギレするヤヤとの間に火花が散る。

全部で3つのパートから成る本作。そのパート1は、徹底的なルッキズムの世界であるモデル業界を揶揄しつつ、ヤヤとカールの口論を通しジェンダー問題に一石を投じてもいる。

パート2では、そんな二人が豪華船クルーズの旅に出る。インフルエンサーであるヤヤが無料招待され、カールも同伴することになったのだ。

乗客はスーパーセレブばかり。ロシアの財閥オリガルヒの夫婦、武器の製造販売で富を築いた英国人夫婦、同行者にドタキャンされ単独参加したリッチマン、脳卒中の後遺症で会話がままならない中年女性とその夫…。

わがままで浮世離れした乗客を、客室乗務員たちが全力でもてなす。お客様は神様。どんな理不尽なリクエストにも応えるのが彼らの使命だ。

贅の限りを尽くす富裕層と、彼らに尽くしまくるサービススタッフ。まるで貴族と使用人である。しかし、下には下がいる。乗客が足を踏み入れることのない下層階には、料理や清掃を担当する非白人スタッフが働いているのだ。

海の上に設えられた社会の縮図。その堅固な構造が崩れる時が訪れる。嵐の到来である。

しぶきで窓ガラスが濡れる。大きな揺れで船室が傾く。満を持して開催された“キャプテンズ・ディナー”の席は、船酔い者の嘔吐物が散乱。トイレは破裂し汚水が噴き出す。階段からは人が転げ落ちる。爆笑必至のパニック劇が繰り広げられる。

とどめを刺すのが海賊の襲撃だ。手榴弾が投げ込まれ、船は難破。こうして怒涛のパート2は幕を下ろす。

パート3では、無人島に漂着した生存者たちのサバイバル生活が描かれる。、もはや、金も地位も関係ない。問われるのは生きる力だけだ。

従来のヒエラルキーは崩壊する。ここで底力を見せつけ、新たなキャプテンとして名乗りを上げるのは、トイレの掃除婦だったアビゲイルだ。

ヤヤとカール、客室乗務員のポーラ、そしてロシア人や脳卒中の女性ら数人の富豪たちが、アビゲイルの支配下で生きていく。漁獲も料理も火起こしも、アビゲイル以外にこなせる者はいない。そんな彼女に誰も逆らえるわけがないのだ。

さて、アビゲイルは手にした権力をどう行使するのか。彼女の僕(しもべ)に成り下がったヤヤやカールたちの運命は?

ヒエラルキー最下位だった者が最上位に君臨することによって、階級社会の構造が露呈する――。「フレンチアルプスで起きたこと」(2014)、「ザ・スクエア 思いやりの聖域」(2017)でその名を世界に知らしめたスウェーデンの異才リューベン・オストルンド監督が、セレブリティや大富豪にフォーカスし、資本主義社会を痛烈に皮肉った快作である。

映画レビュー「逆転のトライアングル」

逆転のトライアングル

2022、スウェーデン/ドイツ/フランス/イギリス

監督:リューベン・オストルンド

出演:ハリス・ディキンソン、チャールビ・ディーン、ドリー・デ・レオン、ウディ・ハレルソン

公開情報:2023年2月23日 木曜日 より、 TOHOシネマズ 日比谷他 全国ロードショー

公式サイトhttps://gaga.ne.jp/triangle/

コピーライト:Fredrik Wenzel © Plattform Produktion

配給:ギャガ

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

この投稿にはコメントがまだありません