イベント・映画祭外国映画

第23回東京フィルメックス 審査員特別賞「ソウルに帰る」

2022年11月24日
韓国生まれだがフランスで養父母に育てられたフレディ。初めて訪れた母国で実父には会えたが、実母は面会に応じてくれない。

実母を求めて彷徨う女性の7年

主人公は25歳のフレディ。韓国生まれだが、誕生後すぐフランス人夫婦の養子となり、以来ずっとフランスで育った女性だ。そんなフレディが初めて韓国に降り立つ。

バカンスで日本を訪れる予定だったが、台風でルートが変更されたのだ。韓国語は話せないし、韓国の文化や習慣も知らない。一人で滞在するのは不便だろう。

だが、たまたまフランス語のできるホテル従業員のテナと親しくなり、彼女が通訳に付き添ってくれることになる。

せっかく祖国に来たからというわけだろうか、フレディは実の両親を探すことにする。田舎に住む実父には簡単に会えた。しかし、あまりに韓国的な実父の言動や振る舞いに、フランス育ちのフレディは引いてしまう。

一方、実母には会えずじまいだった。フレディが面会をリクエストしても実母が拒否すれば会えない。それが養子縁組のルールだ。リクエストの回数は制限されている。フレディは辛抱強く実母の承諾を待つ。

フランス育ちの現代っ子であり、一見ドライに見えるが、フレディは実母の影を引きずりながら生きていく。このギャップは一体何だろう。

映画は、「現在」、「2年後」、「その5年後」、「その1年後」と、時の経過とともに風貌を変え、生活を変えていくフレディを映し出していく。

2年後、フランスの武器会社の社員として韓国へのミサイル販売を担当している強面のフレディ。その5年後には、印象をガラリと変え、彼女はついに実母との感動的な面会を果たす。

最初の2年間、そして次の5年間。フレディに何が起きていたのか。何が彼女をあれほどまでに激変させたのか。

映画はフレディの変化のプロセスはすべて省略し、変わらず存在し続けた実母への思いに焦点を絞っていく。

悲願が達成される瞬間、すさまじいまでの感情が噴出する。しかし、不思議なことに、その後の二人の関係については言及がない。それどころか、実母の顔も映し出されることはないのだ。

改めて振り返ってみると、実にミステリアスな映画である。肝心なところが描写されていない。見る者はその空白を自分で埋めるしかない。想像力しだいで、いかようにも広く深く読解できる映画とも言える。

ソウルに帰る

ドイツ/フランス/ベルギー/カタール

監督:ダヴィ・シュー

出演:パク・ジミン、オ・ガンロク、グカ・ハン、キム・スンユン、ヨアン・ジマー

公式サイト:https://filmex.jp/2022/

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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