日本映画

映画レビュー「百合の雨音」

2022年10月12日
高校時代の恋がトラウマとなっている葉月。夫との関係が破綻している栞。二人は強く惹かれ合い、禁断の一線を越えてしまう。

抒情あふれるメロドラマ

出版社に勤める編集者の君原葉月は、高校時代の恋がトラウマになっている。相手は同じ学校の先輩。女同士の恋は激しく燃え上がったが、周囲に理解されず、最後は悲しい結末を迎えた。

そんな葉月が、会社の上司である澤田栞(しおり)に恋をする。栞も葉月に気があるようだ。ある晩、雨宿りする葉月を「シャワー浴びない?」と栞がホテルに誘う。禁断の愛が扉を開ける――。

栞は既婚者である。社内不倫している夫との関係は破綻している。しかし、妊娠可能な年齢がリミットを迎えているため、夫との性交渉が不可欠である。

夫の不倫相手は葉月の同期で親しい友人の水島華である。葉月はその不倫現場を目撃している。

つまり、葉月は相手が親友の浮気相手の妻であることを知りながら、不倫関係を持ってしまうのである。この設定が、本作の展開に大きな影響を与えていく。

また、葉月が担当する著者の母親が栞の“知り合い”だったという事実も、重要な伏線となっている。

このあたりのサスペンス味を含んだストーリーの面白さは、「プライド」(09)や「ばかもの」(10)で金子修介監督とコンビを組んだ高橋美幸の脚本の巧みさであろう。

葉月と栞が初めて対面する場面で、葉月が栞の香水に、栞が葉月の深爪に反応する場面も素晴らしい。特に“深爪”は本作の主題を特徴づける重要なファクター。女性ならではの着眼が光る。

もちろん、作品全体を包むロマンティックな雰囲気は、金子監督ならではのものだ。ピアノ、弦楽、管楽など場面に応じて音楽を使い分けてムードを盛り上げ、ディゾルブを多用して夢のように流れていく時間を表現する。その卓越したテクニックにしたたか酔わされる。

ホテルの部屋の鏡を生かした映像もいいし、真っ白な百合の花、真っ赤な雨傘など、色彩設計も秀逸だ。女優二人の絡みの美しさは言うまでもないだろう。

日活ロマンポルノ50周年記念プロジェクト「ROMAN PORNO NOW」の第3弾として製作された作品。

若々しさに満ちたコメディ風味の「OL百合族 19歳」(84)から38年、ロマンポルノの原点に立ち返った巨匠が放つ、抒情あふれる大人のメロドラマ。

映画レビュー「百合の雨音」

百合の雨音

2022、日本

監督:金子修介

出演:小宮一葉、花澄、百合沙、行平あい佳、大宮二郎 / 宮崎吐夢、星野花菜里、宝保里実、細井じゅん

公開情報: 2022年10月14日 金曜日 より、ヒューマントラストシネマ渋谷他 全国ロードショー

公式サイト:https://www.nikkatsu-romanporno.com/rpnow/

コピーライト:© 2022日活

配給:日活

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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