外国映画

映画レビュー「みんなのヴァカンス」

2022年8月19日
惚れた女の子を追って南フランスへ。若者たちに起きる奇跡的な出来事を、デリケートかつスリリングに描いた青春映画の逸品。

愛すべき男たちの恋と友情

セーヌ河畔、夏の夜。若者たちが青春を謳歌している。黒人青年のフェリックスも、アルマという白人の女の子と意気投合し、ロマンティックな一夜を過ごした。

目覚めてなお夢見心地なフェリックス。ところが、アルマは家族とヴァカンスを過ごすため、そそくさと旅立ってしまう。

アルマが恋しくてたまらないフェリックス。矢も楯もたまらず、親友のシェリフを伴い、アルマが滞在する南フランスのディーという田舎町へと出発するのだが――。

ネットで女性を装い、車の相乗りサービスをゲットしたフェリックスとシェリフ。まんまと騙した白人青年のエドゥアールが運転する車に乗り込み、意気揚々と現地に向かう。

事前に連絡をせず、いきなり現地で電話するというサプライズ作戦だ。しかし、フェリックスの期待とは裏腹に、アルマの反応は冷たい。

それでも、翌日に会う約束は何とか成立させる。やや落ち込みながらも、気分を奮い立たせようと必死なフェリックス。だが、親友シェリフの目はごまかせない。

「きっと何かあったんだ」。エドゥアールと同衾(きん)するテントの中でシェリフが言うと、「分かるよ」とエドゥアールが頷(うなず)く。

ところが、フェリックスがアルマと再会した当日、エドゥアールとシェリフがプールサイドから目にした光景は、二人の想像を裏切るものだった。

笑いながらはしゃぐフェリックスとアルマ。遠景だが二人の幸福感は伝わってくる。深い緑に囲まれた渓流の中で戯れる姿に、「やるね」、「夢のようだ」と羨むシェリフとエドゥアール。

だが、それはまさに一瞬の夢だった。アルマは些細なことで機嫌を損ね、おまけに足を怪我。救護所でスタッフに治療してもらうが、その男がキザなサーファー風だったので、フェリックスが嫉妬。一気に二人は険悪なムードに包まれてしまうのだ。

この時点でフェリックスとアルマのラブストーリーは暗礁に乗り上げる。代わりに浮上するのが、フェリックスとは対照的に女性には奥手らしいシェリフのエピソードだ。

洗面所でエレナという子連れの女性と知り合い、娘のニナに懐かれたシェリフは、母親のエレナとも意気投合し、毎日、母娘と時間を過ごすようになる。

河辺へピクニックに出かけたり、卓球に興じたり。シェリフにとって至福の時間が流れていく。

一方、最初は馬が合わず互いに遠ざけ合っていたエドゥアールとフェリックスは、サイクリングをきっかけに急接近する。山道を走り、登りきった頂上からの素晴しい眺望とそよ風を二人が共有する場面には、青春の息吹が満ち溢れている。友情が芽生える瞬間である。

大人しいエドゥアールが、渓流下りでキザ男相手に大立ち回りを見せるシーンも、フェリックスとの交流を描いたこの場面がその前にあるからこそ納得できるのである。

このようにドラマの進行につれて、人物同士の関係が変化していくところは、本作の見どころの一つだ。アルマとフェリックスもそうだし、シェリフとエレナもそう。

思わぬ出会いから予想外の展開が生じ、新しい人生の可能性が開けていく。フェリックスの独り相撲から始まったヴァカンスは、3人の男たち同士、さらには男たちが出会う女性らの人生も巻き込みながら、いくつもの小さな、しかし忘れ難いドラマを生み出していくのである。それは彼らの人間的成長の結果でもある。

男たちに起きる奇跡的な出来事を、デリケートかつスリリングに描いていくラスト。その余韻を味わいながら、まだまだ続くであろう彼らのその後を想像せずにはいられない。

「女っ気なし」(2011)、「やさしい人」(2013)のギヨーム・ブラック監督作品。本作公開を記念し、ギヨーム・ブラック監督の特集上映が同時開催される。

「みんなのヴァカンス」公開記念

ギヨーム・ブラック監督作品を週替わりで特集上映!

8月20日(土) 13:05『遭難者』+『女っ気なし』
8月21日(日)~26日(金) 15:20『遭難者』+『女っ気なし』
8月27日(土)~9月2日(金) 時間未定『やさしい人』
9月3日(土)~9日(金) 時間未定『勇者たちの休息』『7月の物語』

詳細は下記サイト

http://www.eurospace.co.jp/works/detail.php?w_id=000616

映画レビュー「みんなのヴァカンス」

みんなのヴァカンス

2020、フランス

監督:ギヨーム・ブラック

出演:エリック・ナンチュアング、サリフ・シセ、エドゥアール・シュルピス、アスマ・メサウデンヌ、アナ・ブラゴジェヴィッチ、イリナ・ブラック・ラペルーザ

公開情報: 2022年8月20日 土曜日 より、ユーロスペース他 全国ロードショー

公式サイト:https://www.minna-vacances.com/

コピーライト:© 2020 – Geko Films – ARTE France

配給:エタンチェ

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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