イベント・映画祭外国映画日本映画

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022 最優秀作品賞は「揺れるとき」

2022年8月2日
NEW!
最優秀作品賞「揺れるとき」、優秀作品賞(長編)「ダブル・ライフ」。ともに主人公が苦境を克服し、新しい一歩を踏み出す物語だ。

7月16日(土)から24日(日)まで、3年ぶりにスクリーン上映され、21日(木)から27日(水)まではオンライン配信もされたSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022。

国際コンペティションの最優秀作品賞にはフランス映画「揺れるとき」、国内コンペティションの優秀作品賞(長編部門)には「ダブル・ライフ」が選ばれた。

「揺れるとき」少年の成長と出発の物語

「揺れるとき」は、貧困地域に暮らす10歳の少年が、新任の男性教師と出会うことで勉学意欲に目覚め、自分の夢を実現するため、敢然たる一歩を踏み出す物語。

主人公のジョニーは頭のいい少年である。だが、家庭環境に恵まれない。タバコ屋で働くシングルマザーの母親は無教養で、ジョニーの教育にも無関心。兄は不良仲間とつるんで遊んでばかり。

幼い妹の世話をするのはジョニーの役目だ。いわゆるヤングケアラーである。勉強することも遊ぶこともままならない毎日。そんな不遇な少年の人生に光が差す。

新しく着任した男性教師アダムスキーに文学の才能を見出され、俄然やる気を出すのだ。アダムスキーによってジョニーはそれまで知らなかった芸術の世界にも目を開かれ、自分の中に眠っていた能力に気付く。

ジョニーはアダムスキーを慕うようになる。だが、その気持ちは生徒が教師に対して抱く尊敬や憧れを越えるものだった――。

アダムスキーに対するジョニーの感情は、ひと昔であればスキャンダラスそのものだったろう。しかし、現在はLGBTを異常と見做すほうが非常識であり、本作でもジョニーが乗り越えるべき一つの大きな試練として描かれている。

周りの誰も気づかなかったジョニーの性的指向。それをジョニーと同年配の少女が敏感に察知し、助言を与えるシーンがある。

「男が好き?」。「キスのタイミングは相手が唇を見つめた時よ」。悪戯っぽく唆(そそのか)す。ジョニーが目を輝かせる。

相手が異性であるか同性であるかは、彼らにとって問題ではない。こだわりのない新世代の恋愛観をさりげなくも鮮やかに表現した場面として印象に残る。

ジョニーの恋ははかなくも破れるが、つらい体験を克服してジョニーはひと回り大きく成長し、果敢な一歩を踏み出す。

ジョニーが母親に自分の意志を告げた後、吹っ切れたように一人で踊り始めるラストがいい。バックに流れるディープ・パープルの「チャイルド・イン・タイム」がダンスを盛り上げ、画面に情感があふれ出す。

中性的な主人公を演じたアリオシャ・ライナートの本職はダンサー。ラストシーンのダンスで本領を発揮するが、全編にわたって見られるノンバーバルな感情表現に、ライナートの身体能力が発揮されている。

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022  最優秀作品賞は「揺れるとき」」

「ダブル・ライフ」“レンタル夫”と人妻との愛

「ダブル・ライフ」は、夫との関係が壊れかけている女性が、“レンタル夫”と契約し、もう一つの夫婦関係を築いてしまう物語だ。

ヒロインの詩織は、ダンスのワークショップで助手を務めている。夫とペアでワークショップに参加するはすだったが、夫から直前にキャンセルされ、積年の不満が爆発する。

代行サービスで淳之介という男性をレンタルした詩織は、夫婦を装いワークショップに参加する。求められる役割を的確にこなす淳之介を詩織は気に入り、頻繁にレンタルするようになる。

二人だけで過ごすため、密かにアパートまで借りてしまう詩織。しだいに淳之介のいない生活は考えられなくなっていく。

愛情にあふれた淳之介の表情や言葉は、あくまで演技である。しかし、詩織の目には演技か本気か判然としない。詩織の感情はエスケレートし、やがて淳之介と結婚したいとまで思いつめるのだが――。

詩織はどんどん淳之介にのめり込んでいく。だが、淳之介には詩織に話していない私生活がある。あるとき、詩織はそれを垣間見てしまう。

ときめいて、よろめいて、酔いしれて、そして我に返る……。揺れ動く女性の心理を、詩織役の菊地敦子が繊細に演じている。

心にぽっかりと空いた穴を、恋人や愛人ではなく、“レンタル夫”という有料サービスで満たそうという設定がとても興味深い。

淳之介が詩織にプレゼントした簪(かんざし)の代金を後で請求する場面には思わず笑ってしまった。

お金を介在させたビジネスライクな夫婦ごっこ。だが、そのお芝居の隙間から、リアルな感情がこぼれ出る。

詩織にとって長く忘れていた感情。淳之介と出会って、詩織の中に甦った。そんな自分の心に真正面から向き合った詩織が最後に選んだ生き方は? ラスト、決然と新たなスタートを切る詩織の姿が美しい。

監督は、北京電影学院を卒業後、日本に留学し映画を学んだ余園園。本作は、立教大学大学院で映画監督・万田邦敏教授の指導を受けて完成させた。

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022  最優秀作品賞は「揺れるとき」」

揺れるとき

2021、フランス

監督:サミュエル・セイス

出演:アリオシャ・ライナート、アントワン・ライナルツ、メリッサ・オレクサ、イジア・イジュラン

コピーライト:©Avenue_B

ダブル・ライフ

2022、日本/中国

監督:余園園

出演:菊地敦子、松岡眞吾、古川博已、若狭ひろみ

公式サイト:https://www.skipcity-dcf.jp/

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

この投稿にはコメントがまだありません