日本映画

映画レビュー「夜明けの夫婦」

2022年7月21日
セックスレスの夫が浮気している。義母は「孫の顔が見たい」とプレッシャーをかける。追いつめられた妻のとった行動は――。

セックスレスと浮気と子づくり

結婚して4年になるさら。セックスレス状態の夫・康介は密かに浮気しており、義母は「孫の顔が見たい」とプレッシャーをかける。何とも憂鬱な日々である。

子供がほしくないわけではない。だが、康介との行為がないのに、妊娠するわけはない。康介に事情を話し、セックスにチャレンジするのだが、フィニッシュには至らない。

住居は康介の実家。いわゆる二世帯同居である。義母は決して封建的な考えの持ち主ではなく、かつては社会運動に参加し、国会デモにも参加する、どちらかというと進歩的な女性である。だが、コロナで実母を失くし、心にぽっかり穴が開いてしまった。寂しさを埋めるために孫がほしいのだ。

さらは、勤めていた会社が倒産したが、退職する友人の代わりとして転職に成功。仕事にも頑張らなければならない。なのに、義母はさらに子づくりしか求めていないようだ。

夫の浮気と子作りのプレッシャー。加えて、彼女には在日韓国人であることからくる息苦しさもあった。同じ韓国人の友人が、「子供に自分のような苦労をさせたくないから出産はしない」と韓国語でさらに語るシーンが印象的だ。

本作は、このようなハードな状況に追いつめられたさらの目を通して、夫婦関係、家族関係の実相を暴いていく。

テーマはシリアスだが、語り口は軽快にしてユーモラス。さら役の鄭亜美が、か弱げに見えて強情、しとやかそうでいて挑発的、小悪魔風の雰囲気さえ漂う、独特なヒロイン像を造形し、ものすごい求心力でストーリーを引っ張っていく。

その思いつめた眼差しに康介は気圧され、何を考えているか分からない表情に義母はイラつき、エロティックな笑みに義父は欲情するのだ。

中盤から物語に緊張感を与えるのは、康介に浮気相手が贈ったプレゼントである。高級デパートの包装紙でラッピングされたネクタイ。家に持ち帰るわけにもいかず、いったんゴミ箱に捨てたものの、思い直して鞄に入れるのだが――。

この包みがいつ開けられるのか。誰が開けるのか。先延ばしされる行動と、ついに訪れるその瞬間。この部分は完全にサスペンス映画のモードだ。あっと驚く展開に呆然となる。

劇中で何度か挿まれる白昼夢混じりのシュールな展開、そしてクライマックスのホラー風な場面には、ブニュエルやオゾンと同類のセンスも感じさせる。

「ミツコ感覚」(2011)や「友だちのパパが好き」(2015)などで一部のファンから注目されてきた山内ケンジ監督。本作でいよいよブレイクするか。

映画レビュー「夜明けの夫婦」

夜明けの夫婦

2021、日本

監督:山内ケンジ

出演:鄭亜美、泉拓磨、石川彰子、岩谷健司、筒井のどか、金谷真由美、坂倉奈津子、李そじん、吹越満、宮内良

公開情報: 2022年7月22日 金曜日 より、新宿ピカデリー、ポレポレ東中野、下北沢トリウッド他 全国ロードショー

公式サイト:https://yoakenofuufu.jp

コピーライト:© 『夜明けの夫婦』製作委員会

配給:スターサンズ

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

この映画をAmazonで観る

この投稿にはコメントがまだありません