日本映画

映画レビュー「教育と愛国」

2022年5月12日
教育基本法に「愛国心」条項が盛り込まれ、教科書には戦争加害の事実を書かないよう圧力がかかる。政治が教育現場を蹂躙している。

政治が教育を蝕む

近々「稼げる大学」法案が成立するかもしれない。金を生み出す研究をする大学には金を出すという制度で、金になるかどうかは政治的判断に委ねられそうだ。

選考されるのは、当然のことながら、政府の気に入る研究を行う大学ばかりになるはず。かねて大学における軍事研究の可否が問題となってきたが、目先の金に釣られてタブーを破る大学がまた出てくるかもしれない。

ともあれ、この法案が成立すれば、大学における学問の自由がますます狭まることは間違いないだろう。

教育や学問への政治介入が目立ち始めたのはいつ頃だろうか。「新しい歴史教科書をつくる会」が発足したのが1997年。同会は「南京虐殺」や「従軍慰安婦」などの記述を自虐史観によるものとして排除し、神話や神道など皇国史観に基づく記述に紙幅を割いた。

右派の政治家たちがこれを支持する。2006年に教育基本法は改正され、愛国心条項が盛り込まれた。この動きの中心にいた安倍晋三は、2012年の教育再生シンポジウムで「教育に政治が介入するのは当たり前だ」と言い放った。

戦争加害は捏造された歴史として徹底的に否定する。韓国が設置する慰安婦像には敵意をむき出しにする。“美しい国ニッポン”のイメージを損なう言論、表現などは一切排除したいわけだ。

本作は、2017年に毎日放送(MBS)の映像シリーズで放送され、ギャラクシー賞・大賞を受賞したドキュメンタリー番組「映像’17 教育と愛国~教科書でいま何が起きているのか~」に最新取材を加え、1本の映画にまとめた作品である。

監督はMBSのディレクター・斉加尚代。政治によって歪められる教育現場を20年以上にわたり見つめ続けてきた。

戦争加害の記述をめぐり右派勢力から攻撃を受け倒産した教科書会社の元編集者、右派政治家の意向に沿った教科書を執筆した歴史学者、授業で慰安婦問題を取り上げバッシングを受けた女性教師、日本学術会議の任命を拒否された早稲田大学教授……。斉加がインタビューした当事者たちの発言からは、教育現場、研究現場が直面している深刻な現実が浮かび上がる。

本作の冒頭に、アメリカが戦時中の日本の教育を描いた国策映画が紹介される。こんな字幕が付いている。

「(日本の学校では)政府が選んだ事実や認められた思想のみが教えられる」

「教育の目的は、同じように考える子どもの大量生産である」

「天皇の従順な忠臣にするために必要な知識と技術を短時間に教える」

「教師は政府によって養成され天皇に忠実な者だけが教壇に立つことを許される」

「天皇」を「政府」に代えてみよう。“彼ら”のめざしているであろう教育そのものになりはしないか。戦争加害の歴史は教えず、被害の歴史のみ教えること。森友学園で幼児に教育勅語を刷り込むこと。学術会議で6人の任命を拒否したこと。すべて符号するではないか。

彼らの狙いは明らか。あの時代への回帰だ。警戒しよう。

映画レビュー「教育と愛国」

教育と愛国

2022、日本

監督:斉加尚代

公開情報: 2022年5月13日 金曜日 より、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋、アップリンク吉祥寺他 全国ロードショー

公式サイト:https://www.mbs.jp/kyoiku-aikoku/

コピーライト:© 2022映画「教育と愛国」製作委員会

配給:きろくびと

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

この投稿にはコメントがまだありません