外国映画

映画レビュー「MONOS 猿と呼ばれし者たち」

2021年10月28日
人里離れた山岳地帯から、弱肉強食のジャングルへ。裏切り、報復、脱走、そして死。少年少女たちの熾烈なサバイバル劇が展開する。

CGを使わない本物の迫力

山岳地帯。雲海を見下ろすほどの高地である。どこの国か、いつの時代かは不明。若い男女が8人で集団生活を送っている。

どこかの国と交戦状態にあるのだろう。“モノス”(猿たち)と呼ばれるゲリラ組織に属する彼らに課せられた任務は、女性捕虜である“博士”の監視だ。

監視と言っても、地面に掘った穴に博士を閉じ込め、時々穴から覗き見るだけ。思春期の少年たちにとっては性的好奇心の的にもなろうか。いずれにせよ、仕事というほどのものではない。

たまにやって来て、厳しい訓練を施し、何かしら指令を与えて、去って行くメッセンジャーの男を除けば、彼らの自由を侵す者は誰もいない。

スポーツし、じゃれ合い、男女でいちゃつき、時には酒を飲んで羽目を外す。ある意味、ユートピアである。

そんな長閑(のどか)な日々が、ある事件によって一変する。酒に酔って発砲しながら騒いでいる際に、メッセンジャーから預かった大切な乳牛を誤って射殺してしまったのだ。

撃ったのはドッグだったが、リーダーのウルフは責任を感じ自殺してしまう。新リーダーとなったビッグフットは、ドッグをかばい、ウルフを犯人とすることで、事の穏便化を図るが、これをきっかけにメンバー間に不協和音が生じる。

やがて敵の襲撃が始まり、7人の若者たちには、激烈なサバイバルゲームへと放り込まれる――。

場面は、静かな山岳地帯から密林へ。捕虜の“博士”が隙をついて逃亡する。蚊を避けるためビニール袋で顔を覆い、川で溺れないよう何本ものペットボトルを胴に括りつけ、必死にジャングルを走り、川を下る。スタントなしで演じたらしいが、ものすごい臨場感だ。

逃走中に発見され捕まった博士は、モノスの一員でスウェーデンと呼ばれる少女が管理することになる。もともと、敵襲時に博士の殺害を命じられたが果たせなかったスウェーデン。ジャングルの中の水辺で再び博士と二人きりになったときに、それは起こる。

奇襲。そして突然訪れる死。戦争の非情かつ野蛮な本質が露わとなる瞬間だ。見開かれる目、断末魔のもがき。そのリアルな映像は、見る者を戦慄させずにはおかないだろう。後半のサバイバル戦で描かれる数々のエピソードの中でも、とびきり凄まじいシーンである。

このシーンと前後して起こる、メンバーの裏切り、処罰、叛乱……。組織から切り離されたモノスの結束がガラガラと崩れていく。離脱者も出る。

人里離れた山岳地帯で暮らしていた少年少女が、弱肉強食のジャングルへと駆り出され、恐怖と狂気にまみれるストーリー。生き残るのは誰か。逃げおおせるのは誰か。

戦争映画なのか? 冒険活劇か? それともホラー・ファンタジーか? 何と呼べばよいのか分からないが、とにかく、全編に漲(みなぎ)る映像の力が尋常ではない。CGに頼らぬ捨て身の演技、体を張った水中撮影。本物だけが発する迫力に圧倒される。

映画レビュー「MONOS 猿と呼ばれし者たち」

MONOS 猿と呼ばれし者たち

2019、コロンビア/アルゼンチン/オランダ/ドイツ/スウェーデン/ウルグアイ/スイス/デンマーク

監督:アレハンドロ・ランデス

出演:モイセス・アリアス、ジュリアンヌ・ニコルソン

公開情報: 2021年10月30日 土曜日 より、シアター・イメージフォーラム他 全国ロードショー

公式サイト:http://www.zaziefilms.com/monos/

コピーライト:© Stela Cine, Campo, Lemming Film, Pandora, SnowGlobe, Film i Väst, Pando & Mutante Cine

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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