外国映画

映画レビュー「共謀家族」

2021年7月15日
家族を守るため、男は映画で学んだトリックを駆使して、完全犯罪を企てる。敏腕の女性警察官が、鉄壁のアリバイを崩しにかかる。

映画マニアVS敏腕警察官

幼い頃に中国からタイに移り住み、今はインターネット回線会社を営むリー・ウェイジエ。美しい妻と二人の娘とともに、つましくも幸せな暮らしを送っていた。

唯一の趣味は映画鑑賞。「1000本映画を見れば、分からないことなどない」と豪語し、近所の友人相手に映画のウンチクを語っては悦に入っていた。

ところが、ある日、リーが出張で遠出をしている間、留守宅で大変な事件が起きる。長女のピンピンが不良高校生のスーチャットを誤って死なせてしまったのだ。

実は事件の起こる前、ピンピンは、サマーキャンプ先で、スーチャットに薬を飲まされ暴行されていた。しかも、その様子をスマホで撮影され、脅されていたのだ。

その日、自宅にやってきたスーチャットからスマホを奪おうとしたピンピン。無我夢中で振るった一撃が致命傷となった。

帰宅後、妻のアユーとピンピンから話を聞いたリーは、娘と家族を守るため、完璧なアリバイ工作を企てるが――。

数々の犯罪映画から学んだトリックを駆使し、家族一体となって“フィクション”を組み立てていくリー。警察の尋問を想定し、幼い次女にまで応答術を伝授していくリーの姿には、絶対に負けられないゲームに臨む男の決意がみなぎる。

一方、警察には手強い人物がいた。警察局長のラーウェンだ。敏腕の女性エリート警察官である彼女は、こともあろうに、死んだスーチャットの母親でもあった。

「1000件の事件を研究すれば、分からないことなどない」と断言するラーウェンは、鉄壁のアリバイを崩すべく、強引かつ執拗な捜査を進めていく。

映画マニアのアリバイ工作と、鬼警察官のアリバイ崩し。1000本の映画と1000件の事件。どちらが勝つか。スリリングな駆け引きと、知力を尽くしたバトル。最後の最後まで勝負の行方は分からない。

インド映画のヒット作をリメイクしただけあって、ストーリーは盤石。カットバックの多用をはじめ、オーソドックかつシャープな演出で、白熱の心理戦を、サスペンスたっぷりに描くことに成功している。

本作の面白さは、もともと被害者である家族が、被害者のまま加害者へと転じる二重構造にある。強大な権力である警察局長の息子が、無力な庶民の娘を暴行したうえ、脅迫する。この出発点において、長女とその家族は善良なる被害者であり、局長の息子は紛れもない加害者である。

その加害者を誤って殺した長女もまた加害者ではある。しかし、本当に裁かれるべきは誰なのか?

本作の底流にあるのは、横暴な権力に弾圧されてきた庶民に対する圧倒的な共感と、権力に対する反感である。観客は、ラーウェンの追及に屈することなく抵抗し続けるリーに感情移入せずにはいられないだろう。

意表を突いた決着と、含みを持たせたエンディングが秀逸。主役のリーに扮したシャオ・ヤンと、ラーウェン局長役のジョアン・チェンとの、火花散る演技合戦も見ものだ。

映画レビュー「共謀家族」

共謀家族

2019、中国

監督:サム・クァー

出演:シャオ・ヤン、タン・ジュオ、オードリー・ホイ、ジョアン・チェン、フィリップ・キョン、チョン・プイ

公開情報: 2021年7月16日 金曜日 より、新宿バルト9他 全国ロードショー

公式サイト:https://kyobokazoku.com/

コピーライト:© 2019 FUJIAN HENGYE PICTURES CO., LTD, WANDA MEDIA CO., LTD

文責:沢宮 亘理(映画ライター・映画遊民)

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