コンパクトカメラを手に、街を歩き、直感に任せて、シャッターを切る。“スナップショットの帝王”の実像に迫るドキュメンタリー。

アレ・ブレ・ボケの天才

池袋、渋谷、新宿、四谷、青山、秋葉原、神保町……。コンパクトカメラを手に、馴染みの街へと繰り出し、メインストリート、路地、地下道、ビル内など、縦横無尽に歩き回り、直感の赴くまま、シャッターを切る。

目に入ったもの、気に留まったものがあれば、さっさと撮るのが、森山大道の撮影スタイルである。

森山が世に出たのは1968年。きっかけとなったのは、写真集「にっぽん劇場写真帖」だ。アレている。ブレている。ボケている。写真の常識を破った森山の作風に、旧世代は青ざめ、若者は熱狂した。

親交のあった同世代の中平卓馬とともに、新しい写真のあり方を模索し、揃って時代の寵児となった。

ところが、70年代に入り、スランプに陥る。「写真よさようなら」以降の低迷期に発表された作品は、ネガの断片で構成するなど、意味不明な写真が多く、大半の写真家からは黙殺された。復活を遂げるのは82年の「光と影」からである。

本作は、そんな森山のデビュー作たる「にっぽん劇場写真帖」を復刊するプロセスを追いながら、上述した現在の森山の撮影風景、そして森山のこれまでの歩みを、傑作写真の数々とともに紹介するドキュメンタリー映画だ。

作中、森山の口から印象的な言葉がいくつも飛び出す。「以前に撮ったものには拘泥(こうでい)しない」。「写せればいい。カメラはコピー機だからね」。フィルムへの執着は一切ない。自動焦点の小型カメラで十分事足りるというのだ。“スナップショットの帝王”と称される所以(ゆえん)だ。

撮影中100回以上も口にしたのは、盟友・中平卓馬の名。無名時代からつねに側にいたのは中平だった。

中平以外の人間は眼中になかったようだ。中平さえいればよかった。「彼はゴダール派だけど、僕はフェリーニが好きだった」という森山の述懐に、映画ファンなら好奇心をかき立てられよう。

世界的フォトグラファーとして揺るぎない名声を確立しながら、いまなお写真界の最前線を走り続ける、唯一無二の天才、森山大道。その実像に迫る画期的作品である。

『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道』(2021、日本)

監督:岩間玄
出演:森山大道、神林豊、町口覚

2021年5月12日(水)より、新宿武蔵野館、渋谷ホワイトシネクイント他全国ロードショー。

公式サイト:https://daido-documentary2020.com

コピーライト:©︎『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい』フィルムパートナーズ