初期ブラック・メタルを牽引したバンド“メイヘム”。メンバー同士の熾烈な覇権争いは、取り返しのつかない悲劇へと発展する。

ブラック・メタルの黒歴史

ノルウェーの首都・オスロ。メタルバンドを率いるギタリストのユーロニモスは、悪魔崇拝主義を掲げ、唯一認めるのはブラック・メタルのみという過激なミュージシャンだ。

バンドの成功を夢見ていたが、強力なフロントマンが欠けていた。そこで急遽メンバーを募集。スウェーデン人のデッドを得て、バンドはがぜん勢いづく。自らのギターサウンドに、盤石のドラムとベース、そこに天才ヴォーカルが加わったのだ。

コープス・ペイント(死化粧)もおどろおどろしく、強烈なオーラをまとったバンド“メイヘム”は、過激なライブパフォーマンスで熱狂を巻き起こす。

だが、少年時代に受けたイジメが原因で精神を病むヴォーカルのデッドは、ステージ上で自らを出血させるなど、自傷行為をエスカレート。挙げ句の果てに、銃で自殺を遂げてしまう。

血塗れで息絶えたデッドを発見したユーロニモスは、一瞬の躊躇の後、遺体をカメラに収める。メンバーの死さえも宣伝材料に使うユーロニモスに、ベースのネクロブッチャーは愛想を尽かし、バンドを去る。

だが、スキャンダル戦略は功を奏し、バンドの人気は急上昇。さらに、ユーロニモスは、両親の援助を得てレコード屋“ヘルヴェテ”を開店、ブラック・メタルの拠点を築く。

そこに現れたのが、以前ライブに来たことのあるヴァーグ。初対面時にクリスチャン(キリスト教徒)という本名をユーロニモスらにからかわれ、ヴァーグと名乗るようになった男だ。同様に揶揄されたスコーピオンズのワッペンも外しての再登場である。

ヴァーグが持参したデモテープは非凡な才能にあふれていた。新たに仲間に加わったヴァーグは、しかしユーロニモスをはるかに上回る急進的な悪魔崇拝者だった。ナチズムにも共感を示す若者は、次々と教会に放火するなど、逸脱した行動で箔(はく)をつけ、バンド内での存在感を高めていくが――。

初期ブラック・メタルを牽引した“メイヘム”の実話に基づく物語。自殺、放火、殺人といった忌まわしい事件の数々が、いずれも臨場感たっぷりに、生々しく描かれ、気の弱い向きは思わず目を背けるかもしれない。

監督のジョナス・アカーランドは、ブラック・メタルの始祖的なバンドである“バソリー”のドラマーだった人物。当時のメタルシーンや、バンド内の事情などにも通じているアカーランド監督ならではの、真に迫った演出は説得力に富んでいる。

最大の見どころは、ユーロニモスとヴァーグとの覇権争いだろう。ローリング・ストーンズやアニマルズの昔から、ロックバンドに主導権の奪い合いは付きもの。ただし“メイヘム”のケースでは、嫉妬や疑心暗鬼で対立が臨界点に達し、取り返しのつかない悲劇をもたらしてしまったのだ。

社会的権威への敵意、徹底的な自己肯定、過剰なプライド……。いつの時代も変わらぬ若者の不安定かつ危険な心理を描き切っている点で、本作はまぎれもない青春映画としての輝きを放っている。

主役のユーロニモスに扮するのは、「ホーム・アローン」(90)の子役で大ブレイクしたマコーレー・カルキンの実弟、ロリー・カルキン。デッド役にはヴァル・キルマーの息子のジャック・キルマー。ともに絶品の演技を見せている。

『ロード・オブ・カオス』(2018、イギリス/スウェーデン/ノルウェー)

監督:ジョナス・アカーランド

出演:ロリー・カルキン、エモリー・コーエン、ジャック・キルマー、スカイ・フェレイラ、ヴォルター・スカルスガルド

2021年3月26日(金)より、シネマート新宿、シネマート心斎橋他全国ロードショー。

★雑誌“ヘドバン”× 映画 『ロード・オブ・カオス』コラボ! 初日トークイベント開催

日時:3月26日(金)18:30の回上映後

劇場:シネマート新宿スクリーン1

公式サイト:https://lordsofchaos.jp

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